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2015.04.15
前庭神経炎(ぜんていしんけいえん)は、突然、強い回転性めまいと吐き気・嘔吐を生ずる疾患です。安静にしてもなかなか収まりませんが、動くとさらに悪化します。
めまいは内耳にある前庭、半規管、それらからの情報が伝わる前庭神経、脳幹、小脳のいずれかが障害されて起こります。
耳の構造
前庭神経炎は、内耳から脳へ情報を伝える前庭神経が、なんらかの原因で障害されてめまいを生じると考えられています。発症前に風邪症状がある人が多いため、ウイルス感染が原因と疑われていますが、詳しいことは分かっていません。
ただ、脳卒中などが原因のめまいと異なり、意識障害(意識がなくなること)、構音障害(こうおんしょうがい:ろれつが回らなくなること)、四肢麻痺(ししまひ:手足が動かなくなること)などは起こさず、生命に危険のある病気ではありません。
前庭神経炎によるめまいは非常に強烈で、通常は救急車で病院に搬送されるなどして入院治療をされる方が多くいます。
めまいを生じる他の耳の疾患との区別についてですが、前庭神経炎と、患者数が多い良性発作性頭位めまい症(りょうせいほっさせいとういめまいしょう)とを比較すると、両方とも難聴や耳鳴りは起きませんが、良性発作性頭位めまい症はしばらく安静にしていればめまいや吐き気が軽くなってくるのに比べ、前庭神経炎はじっとしていてもめまいや吐き気はなかなかよくならず、通常数日間強いめまい、吐き気が続きます。
メニエール病との違いは、メニエール病ではめまい発作に伴って一側の難聴(感音難聴)や耳鳴りが出現するのに比べ、前庭神経炎では難聴、耳鳴りは生じません。ただ、どちらも安静にしていても数日めまいが続くという点では似ています。
治療は、めまい感や吐き気を抑えるために鎮静剤、制吐剤、重曹などを、神経の炎症を抑えるためにステロイド剤が投与されます。吐き気・嘔吐があるため、経口摂取ができない方は、水分補給のための点滴も行ないます。
めまいは必ずしもまれな症状ではなく、軽いめまいならば安静にしていて軽くなることが多く、頭痛や意識障害(意識がなくなること)、四肢麻痺(ししまひ:手足が動かなくなること)などの症状がない場合は、すぐに医療機関にかからなくても大丈夫なことが多いです。しかし、安静にしていてもめまいが治まらない方は、医療機関を受診してください。
この疾患は前庭神経(ぜんていしんけい)の炎症と考えられており、めまいを抑えるための薬だけでなく、神経の炎症を抑えるためにステロイドが有効といわれています。我慢しすぎて治療の開始が遅れると神経の回復が遅くなることもありますので、医療機関を受診するタイミングを逃さないことが大切です。
診断のポイントとしては、安静にしていても軽くならない強烈なめまい発作や、吐き気・嘔吐があるにもかかわらず、意識障害やろれつが回らない、手足が動かないなど脳卒中を疑わせる症状がないこと、また難聴や耳鳴りがないということです。
診断は、症状を確かめ、脳卒中などの疾患がないことを確認すること、また眼振という眼球の異常な動きを確認することで行ないます。診断の確定のためには、前庭神経機能の低下を確認する必要があります。これには、耳に冷水や温水を入れてめまいを誘発する温度眼振検査(カロリックテスト)を行ないますが、発作時には行なわないこともあります。
強い回転性めまいは1週間ほどで軽くなりますが、ふらつきはその後もしばらく続くことが多いものです。症状が軽くなったら、リハビリテーションの意味も含めて積極的に動くようにしてください。
前庭神経炎の原因はウイルス感染が疑われていますが、明らかでない部分もあり、確実な予防策はありません。ただ、このような病気の存在を知っておくことで、必要以上の心配や不安を取り除くことができます。
ポイントは、脳卒中などの生命に危険のある疾患との判別ということになります。「早期発見のポイント」にも書きましたが、この疾患は意識がなくなったり、ろれつが回らなくなったり、手足が動かなくなるなどの症状は起こしません。また、強い吐き気・嘔吐の大半は、めまい発作に伴う症状です。そのような点を考えて落ち着いて対応してください。
次に、急性期を過ぎた後の対応ですが、強いめまい発作が治まっても、ふらつきはしばらく続きます。体の平衡機能は耳からの前庭系、目からの視覚系、足の裏の知覚などの固有感覚系の情報が脳で統合されて維持されています。そのため、発作が治まってからは、めまいのリハビリテーションが大切になります。
これについてはここでは詳しく触れられませんが、頭を固定して自分の指など動くものを目で追うことや、片足で立つこと、目をつぶって立つことなどがリハビリになります。転倒などの危険がないように注意して、歩行訓練をすることも大切です。
この病気のめまいは強い発作を繰り返すことはありませんが、ふらつきなどの症状が長く続く場合がありますので、根気よくリハビリを行なうことが必要です。
解説:小形 章
横浜市南部病院
耳鼻咽喉科主任部長
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