社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

薬剤師が教える薬のキホン

2024.04.16

Vol.15

心身のバランスを整える漢方の基礎知識

一人ひとりの体質や症状・悩みに合わせて治療を行なう漢方。組み合わせによって生薬の効き目にも変化があり、さまざまな効果を生み出します。漢方薬と西洋薬の違いや個人に合わせた服用方法、副作用の危険性などについて、詳しく解説します。

漢方薬と西洋薬はなにが違うの?

オランダから伝わった西洋医学(=蘭方)に対し、漢方は中国から伝えられた医学を基礎として作られた日本独自の伝統医学です。西洋薬は、主に化学的に合成された薬品を原料としていますが、漢方薬は天然物である生薬を複数組み合わせたもので特定できない多くの成分が含まれています。そのため、組み合わせにより生薬の効き目に変化があり効果もさまざまです。
西洋医学では検査結果などから病名を診断して治療を行ないますが、漢方医学は患者さんの体質や体格、気力や生命力の有無など、その人の『証』(体質・症状)をもとに総合的に判断し、治療を行ないます。西洋薬は特定の症状を改善することが得意ですが、漢方薬は心身のバランスを整えて身体全体の症状を改善させることに向いています。

自分に合う漢方薬の飲み方を見つけよう

漢方薬には、生薬を水で数十分煮出して作る「煎じ薬」や、粉砕した生薬にハチミツなどを加えて丸めた「丸薬」、生薬を細かく砕いた「散薬」、「外用薬(軟膏)」、生薬から抽出した成分を乾燥・粉末化した「エキス製剤」があります。最も種類が多いのは煎じ薬で、その人の症状や体質に合わせて生薬の量を調節することができますが、服用前に自分で煎じる必要があります。この欠点を改善したものが、飲みやすい形に加工されたエキス製剤です。

生薬に含まれる精油成分や苦味成分には、嗅覚や味覚を刺激することで胃腸の動きを改善したり、リラックスさせたりといった効果を発揮する側面もあります。体質や症状に合った処方であれば、苦味やにおいがあっても問題なく服用できるといわれています。
漢方薬自体の風味を感じながら服用できるとよいですが、生薬独特のにおいや味が気になる人はオブラートや服薬ゼリーなどを使って服用しても問題ありません。しかし、工夫をしても飲みづらかったり気分が悪くなったりする場合は、その漢方薬が体質に合っていない可能性があるので、医師もしくは薬剤師に相談してください。

漢方薬の多くの成分は、腸内細菌で分解されてから体内に吸収されます。また、一部の成分は胃酸の影響を受けて吸収が穏やかになり、副作用や中毒が起こりにくくなります。このため、漢方薬は食事の影響を避けて食前・食間に飲むとよいといわれています。一方で、例えば地黄(じおう)という生薬を含む漢方薬は、空腹時に服用すると胃を刺激して気分が悪くなったり、胃酸の影響で効果が落ちたりする場合があります。また、食前に漢方薬を服用することでにおいや味が口に残り、胃が刺激されてかえって気分が悪くなり食欲が落ちてしまうこともあります。そのようなときは、漢方薬を食後に服用することをお勧めします。

知っておきたい漢方の副作用

漢方薬も西洋薬と同様に、服用によるアレルギー反応や肝機能障害などの副作用があるといわれています。特に、多くの漢方薬に含まれる甘草のグリチルリチンが引き起こす偽アルドステロン症という副作用には注意が必要です。複数の漢方薬を組み合わせて服用する場合、特定の生薬の量が増えて副作用を起こしやすくなる可能性があります。また、漢方薬と西洋薬を組み合わせて服用するときも、漢方薬に含まれる生薬が西洋薬の効果に影響を及ぼす場合があります。漢方薬を服用中は定期的に血液検査を行ない、副作用が起きていないかを確認しましょう。また、現在服用中の薬と漢方薬の飲み合わせに問題がないか薬剤師に確認してください。

スポーツ選手は要注意? 漢方薬とドーピング

漢方薬に使用する生薬は、含まれているすべての成分が明らかになっていないことから、意図せずドーピングしてしまう可能性があり、注意が必要です。そのため禁止表国際基準(スポーツにおいて禁止される物質と方法)で定められている禁止物質を含まない証明が難しく、国際競技団体や日本アンチ・ドーピング機構に治療申請特例の申請ができません。スポーツで国内外の公式試合に選手として活躍されている人は、漢方薬を使わずに今の症状を治療できるか医師と相談しましょう。


参考資料
学生のための漢方医学テキスト、病態からみた漢方薬物ガイドライン第二版

※掲載している情報および解説者の所属・役職は、本ページ公開当時のものです。

Vol.14 知っておきたい「認知症」治療薬の基本と最新事情 Vol.16 身体や心に害を及ぼす「薬物乱用」とは

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