2025.04.01
Vol.21
医療での活用に期待。大麻に関する法律が変わりました
2024年12月、「大麻取締法」と「麻薬及び向精神薬取締法」が改正され、法律上の大麻の扱いが変わりました。今回の法改正では、大麻の「使用」に対して罰則が設けられた一方で、医療用や産業用の大麻草の栽培が法的に認められ、医薬品をはじめとしたさまざまな分野での活用に期待が寄せられています。改めて「大麻」の薬物としての危険性について触れつつ、法改正で私たちの生活がどのように変化するかを解説します。
~目次~
大麻ってなに?
大麻は、アサ科の一年草で、昔から繊維や種子をとるために栽培されてきました。大麻には特有の化合物(カンナビノイド)が含まれ、主なカンナビノイド成分としてテトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)があります。
THCは脳に作用し、精神作用(幻覚作用)の他に、鎮痛作用、食欲増進作用、鎮痙(ちんけい)作用を示します。CBDはTHCのような精神作用は起こさず、鎮痛作用、抗不安作用、抗炎症作用、免疫抑制作用などがあるといわれています。
なぜ法律が改正されたの?何が変わるの?
改正された主な理由
大麻を医療や産業の分野で適正に利用するため
大麻の乱用を防止するため
そして、具体的な変更点は、以下のとおりです。
①大麻が「麻薬」として取り扱われるようになった
②大麻草の「部位」による規制から「成分」による規制へ変更された
③大麻草由来医薬品の製造や使用が可能となった
④大麻の「使用」に対する罰則が導入された(不正使用に対する取り締まり強化)
⑤「大麻取締法」から「大麻草の栽培の規制に関する法律」に名称が変わり、大麻草の栽培目的に合わせた規制の整備がされた

大麻が「薬」として使えるようになります
海外ではCBDを利用した、「エピディオレックス」という大麻草由来医薬品(大麻草から製造された医薬品)が、難治性てんかん薬として使用されており、日本国内でも臨床試験が開始されています。
これまでの法律では大麻草由来医薬品の使用が禁止されていたため、「エピディオレックス」が医薬品として承認された場合でも使用できない状況でしたが、今回の法改正により、法律に基づいた管理のもとで使用できるようになります。
海外では、大麻草由来医薬品が鎮痛薬や制吐薬、多発性硬化症の薬などとして使用されている国もあります。今後、日本でも大麻草由来医薬品の研究開発が進むことが期待されます。
医療や科学的用途での大麻草の利用が広がります
海外では医療用途・科学的用途で生産される大麻草が増えており、茎の芯(おがら)からバイオマス燃料、バイオマスプラスチック、紙、住宅用建材がつくられるなど、さまざまな用途で大麻が利用されています。また、CBDは抗不安作用があるとされており、リラックス効果のある食品・サプリメントとして日本でもすでに販売されています。
このように医療をはじめとして、さまざまな分野で利用が進む大麻ですが、日本のこれまでの法律では「繊維もしくは種子を採取する目的」の栽培しか認められていませんでした。法改正によって産業用大麻、医療用大麻、医薬品研究開発用大麻を栽培できるようになったため、大麻の多分野での利用が今後見込まれています。
若い人たちの間で大麻の乱用が増えている?
覚醒剤による検挙人数が減少しているのに対して、大麻の検挙人数は若者を中心に増加しています。警察庁の調査資料「大麻事犯における検挙人数の推移(年齢別)」によると、2023年(令和5年)の大麻事犯の検挙人員(6,482人)のうち、30歳未満が74%(4,767人)でした。
今までの法律では大麻の不正使用に対する罰則がなく、そのことが大麻使用へのハードルを下げ、若年層での乱用増加の一因になっているという調査結果があります。今回の法改正で「7年以下の懲役」が科されることになったため、大麻乱用防止への効果が期待されています。

大麻は安全?依存性がない?
大麻成分であるTHCは有害な成分です。医療用での使用が認められても、嗜好用での使用が認められることはありません。大麻について「ほかの薬物より依存性がない」、「安全」、「海外では合法化されている」などといった誤った情報が、若者の大麻使用に対するハードルを下げているといわれています。

依存性がないって聞いたけど……

薬物の依存性には身体依存性と精神依存性があります。覚せい剤やコカインなどの薬物に比べて身体依存性が軽度であっても、くりかえし使用しているうちに精神依存性が形成されるため、『依存性がない』というのは誤りです

大麻が合法化されている国もあるんでしょ?

大麻が安全だから合法化されたのではなく、その国で大麻が規制できないほど蔓延してしまい、国が流通を制御し、乱用や密売を防ぐために合法化された、という背景があります
大麻を乱用すると心身に下図のような影響を及ぼします。

特に問題となるのは、依存性と脳への障害です。大麻が脳の成長をさまたげるため、成長期にある若者への影響が大きくなります。薬物乱用については本コラム Vol.16「身体や心に害を及ぼす「薬物乱用」とは」に詳しく記載されています。
大麻の規制の変更により「日本でも大麻を使用してよい」という誤った認識が広がらないように注意する必要があります。自分の身を守るために、また、大麻が今後、医療をはじめとした産業分野で広く活用されるために、間違った情報に流されず、社会全体で正しい知識をつけることが大切です。
参考サイト
大麻規制のあり方に関する大麻規制検討小委員会 議論のとりまとめ(厚生労働省)
第1回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会大麻規制検討小委員会 資料「大麻取締法等の施行状況と課題について」(厚生労働省)
令和7年3月1日に「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行されます(厚生労働省)
大麻の所持・譲渡、使用、栽培は禁止!法改正の内容も紹介します(政府広報オンライン)
大麻対策のためのポータルサイト(警察庁)
薬物乱用防止講座「No More 大麻」(警視庁)
大麻の使用 脳へどんな影響 記憶 視覚 聴覚は?専門家に聞いた(NHK首都圏ナビ)