田中 彩子 さん
コロラトゥーラ・ソプラノ歌手。1984年生まれ、京都府出身。声楽を始めた18歳でウィーンに留学。わずか4年後の22歳のとき、スイス・ベルン州立歌劇場にて『フィガロの結婚』のソリスト・デビューを飾る。同劇場日本人初、かつ最年少での歌劇場デビューで大きな話題を集め、6カ月のロングラン公演を代役なしでやり遂げる。2014年に日本デビュー。ウィーンを拠点としながら、日本でも春と秋にツアーを行なうなど活動の幅を広げている。社会貢献活動も積極的に行なう。2019年Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100」に選ばれる。
世界的にも珍しいハイ・コロラトゥーラ(ソプラノの中でもさらに高音域の超絶技巧)を操る田中彩子さん。ウィーンをはじめロンドン、パリ、ブエノスアイレスなど世界で活躍の場を広げています。この秋から始まる日本ツアーを前に、音楽家として変容を遂げたデビュー当時の思い出を語っていただきました。
3歳からピアノを続け、18歳で声楽に転向した田中さん。
「私は手が小さくて、プロになるのは難しいとあきらめたんです。ところが、試しに歌の先生にみていただくと、『この声(コロラトゥーラ)を出せるのは非常に珍しい!』と。だったら芽が出るかもしれないと、高校卒業後ウィーンに留学することになりました」
最初はドイツ語ができないことに加えて、ヨーロッパの歌手たちのダイナミックな動きや自信満々な感情表現をまねするだけの自分に劣等感を感じてしまう。しかし4年後、オペラ『フィガロの結婚』でデビューが決まり、周囲からの賞賛を受けたとき、その違和感が一変したという。
「私の中にある控えめさや謙虚な日本人らしさは、マイナスではないのかもしれないと気づいたんです。歌舞伎や能といった西洋とは真逆の繊細な美も研究し、自分にできる最善を尽くすことが唯一無二のスタイルにつながると信じて進んでいた矢先に日本デビューも決まり、驚きました」
日本デビューから10年、日本各地でリサイタルを開催する合間には、難病を患う子どもたちの元を訪れ、歌を届ける活動も行なっている。「好きな仕事を続けさせてもらっている身として、できる範囲で人の力になれたら。これからも誰かの心に音の記憶を残していけたらうれしいです」
文:みやじまなおみ 写真:安友康博(機関誌「済生」2025年9月)
田中彩子ソプラノ・リサイタル2025 Fantasy of Coloratura~コロラトゥーラ・ファンタジー公演日程
幼少期、木の上で「ファンタジーな物語」を読むのが好きだったという田中彩子さん。9月から日本各地で行なわれるリサイタルでは、自身が心を奪われた物語を思い出しながら、聴衆を“魔法のように心ときめく瞬間”へと導く、幻想的で色彩豊かな音楽の世界へ誘う。
公式ホームページ:
https://www.ayakotanakaofficial.com/


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