貴重なバイプレイヤーとして数々の作品に出演。年下俳優から「尊敬する先輩」と慕われていることでも知られる浅野和之さん。1作品で11役を演じたかと思えば、ときに小学生、ときにおばあさん役までこなす演技力の源、あふれる舞台愛について語っていただきました。

　多くの演出家から信頼を寄せられ、シリアスで重厚な役から弾けた少女役まで、多彩なキャラクターを求められる俳優・浅野和之さん。「僕はアクの強い俳優ではない」と謙遜しつつ、「だからこそ余計に1つの枠に収まらない役、やったことがない役に関わりたいと思うのかもしれません」と語る。

　大ベテランになっても慢心せず、探求心を持ち続ける理由の一つはお客様の存在だ。「コロナ禍ですべての舞台が中止となり、精神的に落ち着かない時期がありました。でも、ついに幕が開き、お客様の歓声を聞いたとき、僕の仕事ってこんなに意味があったんだと感動しました。今もその光景を思い出すと胸が熱くなります」

　次の作品『やなぎにツバメは』はカラオケスナックが舞台。何気ない会話から大人たちの事情が浮かび上がる本作では、珍しく“普通のお父さん”役だという。

　「大竹しのぶさん演じる元妻に頭が上がらない、気の優しい男性のイメージですが、普通の人ってつかみどころがない分、逆に難しいんです。ただ、僕にも妻と息子がいて、リンクする部分もある」とのこと。ちなみに、お家での浅野さんは？

　「家に帰ると妻がずっとしゃべっているので、もっぱら聞き役です（笑）。等身大の自分を役に近づけつつ、気心の知れたメンバーと極上の会話劇を創っていけたらいいですね」

文・みやじまなおみ　写真・安友康博(機関誌「済生」2025年2月)