日本を代表する劇作家・演出家から信頼される女優・鈴木杏さん。メッセージ性の強い作品では、役に没頭するあまり、日常も自分ではない感覚に陥ることもあるとか。そんなとき、役を手放し自分を取り戻す方法とは? さらに、コロナ禍であらためて感じた舞台への想いを聞きました。
役に入り込んでしまうと、感情のコントロールがきかなくなることがある。舞台ではいつもより心の扉を開けている分、繊細になり、傷つくことも多いという。「私の場合は、そのときの役によって、なぜかマシュマロが食べたくなったり、リンゴが食べたくなったり。嗜好も変わることがあります」
切り替える方法として挙げてくれたのがサウナ。汗をたくさんかくことがリフレッシュになるという。「あとは、犬といちゃいちゃします(笑)。彼に私の精神状態は関係ない。散歩の時間、ご飯の時間、彼のリズムに合わせることで、自分が素に戻る感覚があります」
今年はコロナ禍で公演もままならず、半年のブランクを経て、先ごろ一人芝居で舞台の仕事が再開された。そのとき、観客と心の交流があったという。「感染の危険もあるなか、命がけで観にきてくださったんだと、舞台の上で分かったんです。今まで、演劇は心に触れるものだと思っていましたが、もっと深いところで命に触れている仕事なのだと実感。気づいたからには、心身がよりきれいな状態で舞台に立ちたいと思うようになりました」
秋は、野田秀樹潤色による『真夏の夜の夢』に臨む。「ルーマニアを代表する世界的な演出家であるプルカレーテさんのもと、目の前で起こることを楽しむつもりで、純粋さを持って作品をつくっていきたいです」
文:みやじまなおみ 写真:吉川信之(機関誌「済生」2020年10月)
スタイリスト:三浦真紀子 ヘアメイク:宮本愛(yosine.)
東京芸術祭2020 東京芸術劇場30周年記念公演『真夏の夜の夢』
原作では、アテネの森を舞台に展開される貴族たちの恋の物語だが、今回は、日本の割烹料理屋「ハナキン」の人々が富士のふもとの「知られざる森」が舞台に。さらに、別作品『ファウスト』のキャラクターである悪魔・メフィストフェレスが物語に乱入。野田秀樹の真骨頂である言葉遊びと重層的な物語に浸るうち、切なく美しい喜劇へと集束していく。
●原作:ウィリアム・シェイクスピア 小田島雄志訳『夏の夜の夢』より
●潤色:野田秀樹
●演出:シルヴィウ・プルカレーテ
●出演:鈴木杏、北乃きい、加治将樹、矢崎広 ほか
2020年10月15日(木)~11月1日(日) 東京芸術劇場 プレイハウスほか、新潟・松本・兵庫・札幌・宮城にて上演予定


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