社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2024.03.06

不妊症

infertility

解説:吉本 英生 (高岡病院 産婦人科部長)

不妊症はこんな状態

不妊症とは、1年程度の期間避妊せずに性交をしているものの、妊娠しない状態を指します。
日本産科婦人科学会は不妊症を「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間避妊することなく通常の性交を継続的に行なっているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合を不妊といい、妊娠を希望し医学的治療を必要とする場合を不妊症」と定義しています。
一定期間については1年というのが一般的ですが、妊娠のために医学的介入が必要な場合は期間を問わないとしています。分かりやすい言葉にすると、1年妊娠活動(妊活)しているけど子どもを授からない状況といえるかもしれません。
しかしここで注意が必要なのは、女性の年齢が高くなると妊娠率が下がり、流産率は上がるということです。そのため、1年という期間に縛られず、なかなか妊娠しないと思えば医療機関の受診をお薦めします。

不妊症の症状

妊娠をしないこと、もしくは流産を繰り返すこと(不育症)が挙げられます。「35歳未満の女性で避妊のない性交があるが、12カ月以上妊娠が成立しないカップル」、もしくは「35~40歳の女性で避妊のない性交があるが、6カ月以上妊娠が成立しないカップル」は、不妊症検査を受ける対象となります。

また、下記項目に該当する場合は、早めの検査が必要と判断されます。

■リスク因子が女性側にある場合
・年齢が40歳以上
・無月経などの月経周期の異常がある
・骨盤内炎症性疾患(上部女性生殖器の感染症)の病歴がある
・子宮筋腫や子宮腺筋症などの病歴がある
・重症の子宮内膜症の病歴がある
・卵巣の手術歴がある
・抗がん剤あるいは放射線治療をしたことがある

リスク因子が男性側にある場合
・精巣の手術歴がある
・成人でおたふく風邪(流行性耳下腺炎)を発症した
勃起不全などの性機能障害の病歴がある
・抗がん剤あるいは放射線治療をしたことがある
・ほかのパートナーとの不妊歴がある(精子の数や動き、形などに問題がある)

不妊症の検査・診断

不妊原因の初期検査としては、精液検査、排卵の評価、卵管疎通性(卵管の通りやすさや詰まり具合)の評価、卵巣予備能(卵巣に残っている卵子の数)の評価が一般的です。
精液検査は2~7日間の禁欲後に精液を採取して検査を行ないます。排卵の評価としては基礎体温測定、ホルモン検査(採血)、超音波検査などがあり、卵管疎通性の評価は子宮卵管造影検査(HSG)やクラミジア検査があります。卵巣予備能の評価は、採血検査や超音波検査があります。

そのほかの検査としては、子宮頸管粘液の牽糸性や量、色などを確認する子宮頸管粘液検査、精子を外敵とみなし精子の動きを妨げてしまう抗体の有無を確認する抗精子抗体検査、子宮鏡検査、腹腔鏡検査、MRI検査、染色体検査などがあります。

不妊症の治療法

原因に応じた治療を行なうことになりますが、原因不明の場合を例にすると、タイミング療法、排卵誘発剤投与、子宮内人工授精、生殖補助医療(調節卵巣刺激法、採卵、体外受精、顕微授精、胚凍結、胚移植など)のように身体的、経済的に負担の少ない治療法から順次ステップアップすることが基本になります。しかし、年齢や不妊期間によっては妊娠率の高い治療が優先されることもあります。

■タイミング療法…基礎体温や尿中LH検査、超音波検査などを参考に排卵日を予測し、効果的なタイミングで性交を行ないます。
■排卵誘発剤投与…排卵誘発剤を用いて卵胞(卵子)を育てて排卵を促す方法です。
■子宮内人工授精…排卵日に合わせて、精液を管で子宮内に直接注入する方法です。

妊娠を希望している健常なカップルであれば、3カ月以内に約50%、6カ月以内に約70%、1年以内に90%近くが妊娠するといわれています。不妊症の定義に1年とありますが、医学解説「不妊症の症状」の項で提示した不妊症検査を受ける対象者に該当する人や心配な人は、速やかに医療機関で専門家に相談しましょう。

不妊の原因の30%は卵管因子だといわれています。卵管性不妊の原因としてはクラミジア感染子宮内膜症が有名です。
クラミジア感染は性行為感染症ですので、子どもを欲しいと思うまでの時期は避妊具(コンドーム)を使用した性行を行なうことでクラミジアなどの性感染症を予防できます。
子宮内膜症の予防としては低用量ピルの内服が有効ですので、月経痛や過多月経、月経不順などの症状がある人で妊娠を望まない時期は低用量ピルの内服をお勧めします。

解説:吉本 英生

解説:吉本 英生
高岡病院
産婦人科部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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