社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2014.07.30

骨粗鬆症

osteoporosis

解説:松村 隆 (松山病院 整形外科顧問)

骨粗鬆症はこんな病気

通常、高所からの転落や交通事故に遭うなど、激しい骨への衝撃を受けて骨折することはあり得ることです。しかし、段差や座布団につまづいて転倒するなど、立った姿勢の高さから転倒して骨折したり、手をついたり腰をかがめたりといった、ちょっとした日常動作で容易に骨折するような、脆弱(ぜいじゃく)な骨の状態になることを骨粗鬆症と言います。つまり、骨粗鬆症とは「骨の強度が低下して骨折しやすくなった状態」です。

以下の3つは、骨粗鬆症の三大骨折と呼ばれています。特に閉経後の女性は、その頻度が増していきます。

・家の中でつまづいたり手をついたりして手首や腕を骨折する
・尻もちをついて骨盤や股関節周囲を骨折する
・植木鉢のようなものを前かがみで持ち上げたり、前かがみになっただけで背骨の圧迫骨折をする

以前は、年を取ると背中が曲がるのは老化現象であり、仕方がないことだと考えられてきました。しかし、骨粗鬆症が注目を集めるようになって研究が進み、最近になって予防法や治療法が判明し、効果的な新薬も作られました。その裏には、先進国の超高齢化に伴う、高齢者の深刻な骨折の増加がありました。日本もその例外ではありません。医学研究が進み、骨の代謝メカニズムが明らかになりつつあるため、今では、治療可能・予防可能のレベルまでわかってきています。
骨粗鬆症の患者さんの大半は、40代後半以降の女性です。平均50歳ごろの閉経前後から、女性ホルモンの分泌が急速に低下します。それにより、骨を壊す細胞(破骨細胞)が活性化され、骨を作る細胞(骨芽細胞)による骨の形成が間に合わなくなります。また、骨を構成するコラーゲンが古く固くなるために、骨はスカスカになってしなやかさを失い、もろく折れやすくなるのです。骨折の治療をしても、固定が不良で治療が不十分となる傾向があり、さらに骨折を繰り返すことで日常生活は障害されます。いったん骨折をすると余命まで短縮するとさえ言われており、がんや致死的疾患に劣らない命に関わる重要な疾患と考えられるようになってきています。
原因は女性ホルモンの分泌が低下するなどの老化現象ですが、日頃の運動不足や、不規則な食生活、アルコールの摂取や喫煙などの生活習慣は、骨粗鬆症の進行を早めます。また、高血圧糖尿病、高脂血症、慢性腎臓病など生活習慣病といわれる多くの疾患では、二次的に骨粗鬆症を併発します。さらに、骨代謝に影響を及ぼす薬を使用することでも、薬剤性の骨粗鬆症を起こします。

骨粗鬆症の治療法

診断や治療法の選択には骨密度測定が必要です。骨折を繰り返すなど、ひと目で診断可能な方も多くいますが、治療法の選択や、治療による効果判定のためにも重要な検査です。また、血液検査は骨代謝の状態を把握し、骨軟化症や副甲状腺機能亢進症など、別の疾患が隠れていることが発見されるケースがあるので、鑑別のためにも必要です。

骨粗鬆症の治療は、運動、食事、薬物療法の3つで行なわれます。

(1) 運動

階段昇降や縄跳びなど、重力にさからう負荷がかかる運動が効果的と言われていますが、患者さんの多くは高齢者のため、そのような過度な運動は推奨できません。早歩きするといった、適度な負荷をかけた散歩がよいでしょう。その際、まずは運動しやすく、安定性・クッション性の優れた靴を選びます。転倒予防は骨折を減らすことにもつながるので、靴の選択は重要です。特に、日本人の足型に合わせて作られた日本製のテニスシューズがお勧めです。靴の中で指が自由に動くように、ぴったり合うものよりも1サイズ大きな靴を選択し、厚手のスポーツ用靴下を履いて脱げにくくなるよう工夫をします。手には何も持たず、姿勢を正し、少し遠くを見て、腰から下を意識しながら、全身を使うように早歩きをします。もちろん、患者さんによって、杖をついたりシルバーカーを押したり、その人に合った歩き方で結構です。普段の歩き方より少し意識するだけでも、効果的な運動が可能です。

(2)食事

カルシウムを多く摂るように心がけることは理解できると思いますが、骨を作る材料はカルシウムだけではありません。そのほかに、ビタミンD、K、B、Cなどのビタミン類、コラーゲンを作る肉や野菜、豆類などが重要です。すなわち、バランスを考えて多くの肉、魚、野菜、果物を食べるように心がけましょう。

(3)薬物療法

主に使用する薬は、大別して骨形成を促進する薬と、骨破壊を抑制する薬の2つに分けられます。どの薬を使用するかは、骨密度、年齢、生活習慣、合併症などを詳しく調べてから、医師が患者さんに適した薬を処方してくれます。なるべく、生活習慣やこれまでかかったことのある病気などについて時間をかけて相談できる、骨粗鬆症を専門にした病院を受診することをお勧めします。

早期発見のポイント

下記に当てはまる方は、骨粗鬆症である可能性が高くなります。

・通常より早く閉経を迎えた
・痩せ型の女性で運動が苦手
・家族に糖尿病の人がいる
・母親が大腿骨の骨折をしたことがある

骨折をしたことがない方でも、「もしかしたら」と心配な場合は、病院で骨密度検査をお願いすることも一つの方法です。通常の健康診断でも骨密度測定を行っていることがあるので、積極的に一度は受けてみましょう。
また、生活習慣病や使用している薬剤によっては、急速に骨粗鬆症が進行することがあります。骨密度測定のほかにも、血液検査を受けることもお勧めします。

予防の基礎知識

医学解説の項目でも説明したように、適度な運動、バランスのよい食事、規則正しい生活、禁煙などの節制が原則です。
骨粗鬆症の中には、症状が似ている別の疾患や、使用薬物や基礎疾患に伴う続発性骨粗鬆症があり、診断を確定するには検査と詳細な生活歴の聴取などが必要なため、少し時間がかかります。骨密度を測定して、平均値の70%以上の骨密度であれば、運動や食事など生活指導を中心とした治療を受けるだけです。しかし、骨密度が70%未満であったり、薬剤性であったり、既に骨折した経験があったりすれば、薬物療法が必要です。骨粗鬆症になってからは、骨折を何回も繰り返さないために、専門知識のある主治医とよく相談して予防治療計画を立てる必要があります。

松村 隆

解説:松村 隆
松山病院
整形外科顧問

 


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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