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2016.03.07
飲み込んだ食べ物はまず胸の中(胸腔:きょうくう)の食道を通り、お腹の中(腹腔:ふくくう)の胃に到達します。胸腔と腹腔は横隔膜という筋肉組織で隔てられており、食道や動脈・静脈は横隔膜の裂孔を通じて両者間を交通しています。食道裂孔ヘルニアとは、横隔膜の下、腹腔内にある胃の入口の一部が横隔膜の上に滑り出した状態です。
原因はほとんどが腹圧の慢性的上昇であり、肥満、妊娠のほか慢性気管支炎、喘息など頻繁に咳が出る病気、骨粗鬆症により背中が曲がることなどがあります。また加齢により裂孔が弛緩することで、よりヘルニアが起こりやすくなることがあります。
ヘルニアが存在するだけでは症状はほぼありません。ゲップが出やすい、ぐらいでしょう。しかし、ヘルニアにより胃液を中心とした胃の内容物が容易に食道に逆流することで、さまざまな症状が起こります。代表的な症状は胃酸の刺激による胸焼け、胸痛、胸のつかえ感であり、これを胃食道逆流症・逆流性食道炎と呼びます。胸の痛みは時にとても強く、狭心症など心臓病と間違われることすらあります。また、夜間就寝時に逆流が起こると、慢性の咳嗽(がいそう/咳)やのどの違和感の原因となることもあります。これら慢性的な胃酸の逆流は、のどから食道(胸)に至るまでの知覚過敏をもたらすことも知られています。
胃の内容物の中心である胃酸は、日本人の世代を超えてだんだん濃くなっていることが知られています。これは衛生環境の改善による胃のヘリコバクター・ピロリ感染率および萎縮性胃炎罹患率の低下と食生活の西洋化が原因とされます。肥満者の増加はヘルニアの有病率を上昇させ、併せて胃食道逆流症・逆流性食道炎を増加させています。
食道裂孔ヘルニア自体は無症状のことが多く、バリウム検査(X線)や胃カメラなどの検査で偶然に発見されることが多いです。通常の検診ではこれらは異常なしとされますし、ヘルニアが存在するだけの場合は治療の必要もありません。あくまでも胃酸の逆流による胸焼け、胸痛、つかえ感などを自覚するとき、つまり胃食道逆流症・逆流性食道炎を伴う際に、そのつらさに応じて治療を必要とすることがあります。胃食道逆流症の中でも、食道と胃の境界の粘膜が胃酸によりただれた状態(びらん)になっているものを特に逆流性食道炎と呼び、胃カメラで診断されます。びらんが存在しなくても胸焼けなどが自覚されるもの、慢性咳嗽(がいそう/咳)やのどに違和感があるものを総じて胃食道逆流症と称します。
胃食道逆流症・逆流性食道炎においては、症状が胃酸の逆流によるものか、食道の運動異常などその他の原因によるものかを正確に診断する目的で、専門の施設で食道内圧測定検査や24時間食道pH測定検査が行なわれることがあります。
食道裂孔ヘルニア自体の予防は、腹圧を上げすぎないことであり、つまり肥満に気をつけることやかがんだ姿勢を続けないこと、特に高齢の女性においては骨粗鬆症に適切な治療や予防を行なうことが挙げられます。胃食道逆流症・逆流性食道炎を伴う際は、それに加えて胃酸がたくさん分泌され過ぎるような食習慣への留意が必要となります。具体的には暴飲暴食、特に高脂肪食の大食を避ける、食後にすぐに横にならない、など普段の生活習慣に密接した対策が重要です。
解説:吉村 大輔
福岡総合病院
消化器内科 主任部長
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