演劇界を代表する演出家からラブコールの絶えない俳優の一人、橋本淳さん。役を緻密に作り込んでいるのに素っぽく見える、絶妙な演技が「いい作品に欠かせない人」として信頼を集めています。そんな実力派、橋本さんに新作舞台への意気込みを聞きました。

　新世代をリードする演劇人・加藤拓也氏から厚い信頼を置かれ、8月からの舞台『いつぞやは』で重要な役割を担う。「加藤君は役者を実によく見ています。『今の芝居はやり過ぎですね』『橋本さん、2ページ前の3行目から感情の流れがうまくいっていませんね』……。僕はどちらかというと戯曲をロジカルに分析し計算しながら役を作るタイプですが、その過程も見透かされているので、彼に呼ばれるのはうれしい反面すごく怖い存在だし、だからこそ信頼できる。自分の精神力と体力を賭けて臨むべき芝居だと思っています」

　劇中、橋本さん演じる松坂は、死に向かう主人公からあることを頼まれるが、やんわり拒否してしまう。そんな松坂に対して、「仕事に追われて、本当に大切にしなきゃいけないものに気づけないのかな」と考察。「ただ、僕も共通する部分は多い。忙しさにかまけてメールを返さなかったり、祖母を亡くした後で『もっと話しておけばよかった』と後悔したり。誰しもが経験する話なので、松坂を通してお客様にもそれを感じてもらえたらと思います」

　そんな橋本さんの心のオアシスは犬を愛でること。「幼い頃からずっと好き。でも飼ってはいなくて(笑)。人がお散歩させているワンちゃんを見たり、触らせてもらったりするだけで癒しになります。今は迎え入れる準備をしているところ。その日が来るのが楽しみです！」

文：みやじまなおみ　写真：吉川信之(機関誌「済生」2023年8月)
ヘアメイク：片桐直樹(EFFECTOR)
スタイリスト：岡本健太郎