子どもたちが自主映画制作の夢をあきらめず、親の妨害に遭いながらも作品を完成させたいと奮闘する物語に出演。「まるで私がたどった人生のよう」と語る井上小百合さんに、「女優になる」という憧れを否定されながらも想いを貫き、アイドルを卒業した今、夢の舞台に立っている心境を聞きました。

　女優になりたいと思ったのは中学生のとき。「3人の兄の影響で男の子に交じって元気に遊んだ少女時代から一転して病弱に。入退院を繰り返すようになり、幼いながらに自分が存在する意味が分からなくなったんです。でも、病室でテレビを見ているときだけは楽しくて、人を笑顔にする仕事に憧れを持つようになりました」

　しかし、無謀な挑戦に大人たちが猛反対。唯一、賛成してくれたのは母親だけだった。「母の応援がなければ私はここにいません。映画に出てくる(井上さん演じる)土方先生と同じです。私の中では子どもたちがあのときの自分と重なり、土方先生が母親みたいに思えて……。愛おしいこの作品をぜひ大人のみなさんにも見ていただけたらと思います」

　井上さんはその後アイドルグループの一員になるが、夢を叶えるため活動を一時休業し、演劇界を代表する俳優たちを擁する事務所に何度断られても熱意をぶつけて、ついにその門を開ける。今、夢だった舞台を中心に活躍する姿をあの頃の自分に見せたいと笑う。

「舞台はその日のお客さまによって空気が違ったり、毎日、同じ台詞せりふをしゃべっているはずなのに反応が違ったりして、一人ひとり受け取り方が違う。好きなものと全力で向き合い、そこで作り上げたものを通して誰かが楽しくなってくれたら、それが私の生きる意味だと今は思っています」

文：みやじまなおみ　写真：吉川信之(機関誌「済生」2022年7月)
ヘアメイク：堀川貴世