第149回 書評欄の面白さ
週末の全国紙には書評欄が掲載される。私は熱心な愛読者である。
家の中が本で埋め尽くされてきたので、最近は本の購入を控えるようになった。自然と書店への足も遠ざかってきた。代わって各紙の書評欄が、新刊の情報を教えてくれる。
出版される単行本は、現在、国民が関心を持っていることや持つべきことに焦点が絞られている。新聞やネットワークとは違い、単行本は豊富な情報や多様な分析を知ることができる。責任の所在が明確なので、信頼が置ける。
書評は短い時間で読めるのが良い。本の重要なポイントを要領よく書かれており、本を通読したような気にさせてくれる。
実際に手に取って読んでみたくなる。最近の公立図書館は大変親切である。リクエストすれば購入したり、他の図書館から取り寄せてくれる。「これは絶対読みたい」と書評欄を切り抜いてノートに挟んでおく。しかし、いつの間にか忘れてしまい、切り抜きも消えてしまうのがいつもの私のパターンだ。
書評欄の執筆者は、大学の先生や文芸評論家などその道の権威者である。推奨に値するという前提で本の紹介がされる。終わりの方で物足りない点などを申し訳程度に付加するのが書評のスタイルである。これが同業者としてのエチケットなのだろうか。
これまで私も何度か書評の依頼を受けたことがある。書評は学術論文やエッセイと違い、参考資料の収集などの準備がいらず、対象の本1冊があれば足りるから簡単に思い、最初は気安く引き受けていた。
しかし、本当のところは大変な仕事だった。本を1回読んだだけでは、到底批評などできない。これが重要、ぜひ紹介すべきとマークをしながら、2度、3度と読み込まなければならない。そしてこれを限られた字数にまとめ上げる作業は並大抵でない。書き上げると一冊の本を自分で書き終えたかのような感じがした。
このような苦労を体験していると、なお書評が貴重な情報源に思えてくる。
すみたに・しげる
1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。