第18回 ベルリンの1週間
6月16日から1週間ベルリンに出張した。ベルリンを紹介した本を事前に読んで作り上げたイメージと実際とは、かなりの差があった。
ベルリンは、ドイツの首都だから、絶好調なドイツ経済が凝縮されている、論理的で几帳面なドイツ人の国民性が随所に徹底しているに違いないなどと勝手な先入観を抱いた。実際は、過去の低迷する東欧経済の様相を強く残していた。また、日本で読んだガイドブックでは開港しているはずの新国際空港の完成は、2年先にずれ込んでいた。
しかし、自由な都市で治安が良く、通訳をしてくれた慶応大学OGの入山薫さんは、「大変暮らしやすく、素晴らしい町だ」と話していた。私は、大学時代に読んだ五木寛之の海外小説「さらばモスクワ愚連隊」や「ソフィアの秋」などの空気を感じた。ビルの壁面は落書きでいっぱい、崩れそうな建物群ではあったが、時代を画するような文化は、老朽化したビルの一室から生まれるのだろう。
出会うことはなかったが、美を追求する日本の芸術家が、たくさん住んでいるという。きっと経済的には余裕はないにもかかわらず、ベルリンは、活動がしやすいのだろう。
今回の出張は、ドイツのソーシャルファーム(ビジネス的手法で障害者等の就労の場を提供する組織)の状況を調査し、日本のソーシャルファーム設立に役立てるためである。浦和大学の寺島彰教授、日本障害者リハビリテーション協会の野村美佐子さんが一緒である。
調査プログラムは、私たちと10年近く交流のあるソーシャルファームの専門家であるゲロルド・シュワルツさんが作成してくれた。実質4日間の調査期間ではあったが、本当に充実していた。
宿泊したホテル自体がソーシャルファーム。ルーム数は37に対して、常勤従業員は37人。ホテルグループの経営経験者である私から見ると、明らかに人数過多。そのうち31人が重度障害者。しかし、サービスの水準は、他のホテルに負けていない。宿泊客の75%は、この事情を知らないで利用している。
ランチやディナーは、ソーシャルファームのレストランを利用した。味、雰囲気、価格は、一般のレストランと同じ。高級感を感じさせる店もあった。これがソーシャルファームの神髄である。
電気部品製作、食器容器レンタル、清掃業等のソーシャルファームも見学した。詳細な報告書を現在作成中である。
すみたに・しげる
1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。