社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)
済生春秋 saiseishunju
2021.07.01

第101回 初夏の風が吹いてくる

「昨年からコロナになり、仕事もたいへんきびしいなかでやっています」
 添えられている手紙に書いてあった。コロナウイルスや蒸し暑い天候を吹き飛ばして、元気に農業に精を出しているようだ。

 6月末、埼玉県飯能市に住む原口嵩仁君から段ボール箱が届いた。
 中にはなす、じゃがいも(きたあかり、アンデスレッド、男爵)、たまねぎ、きゅうりなど野菜がびっしりと詰まっていた。いずれも化学肥料を使わず、自然の味が満ちている。早速、妻が、肉じゃが、炒め物、麻婆なすなどの料理を作ってくれた。
「昔の野菜の味はこうだったなあ」と、しみじみと実感する。野菜の持つ本来の旨(うま)さが伝わってくる。彼の丹精を込めた手作りの味が加わっている。
 
 埼玉県第1号の認証NPO法人である「たんぽぽ」は、高齢者介護事業を行なっている。法人の代表を務める桑山和子さんは、12年前にソーシャルファームを始めた。
 私は、当時から日本において障害者などの就労の場としてのソーシャルファームの必要性を訴えていた。桑山さんは、これに賛同して地元の固有種を使った自然農法を軸とした農業を仕事とするソーシャルファームを始めてくれた。
 地域には高齢者のほかに障害者や引きこもりの人などが仕事に就けず、家で孤立して暮らしている。桑山さんは、これらの人が気がかりでならなかったからだ。
 開始に当たっては、私の妻や長男も応援した。
 本当のところは、赤字を出さず農業経営を続けることは、至難なことだ。開始以来ずっと心配してきた。今日まで続いているのは、この法人で一緒に働く人たちの温かい理解があったからだ。

 原口君は、ソーシャルファーム開始当初から働いている。長い間家に引きこもりがちだったが、ソーシャルファームで農作業に従事することで日常生活ががらりと変わった。
 今回の手紙には「今まで人の前にでることがいやでした。最近は野菜の作りかたや調理のしかたを聞いてくる人が多く、説明もできるようになり、うれしく思いながらやっております」と自信と希望が文面から伝わってくる。

 ソーシャルファーム設立活動をしてきて本当に良かった。飯能の地から爽やかな初夏の風が吹き込んできた。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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