社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい) SDGS rd05
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済生春秋 saiseishunju
2022.06.06

第112回 飛蚊症は長年の友

 高校生の頃から重度の飛蚊症に悩んできた。眼精疲労や栄養不足などが積み重なった結果だが、若い頃は大変気になった。
 本を読んでいると、真っ白な紙の上を透明なごみのような物体が、目の動きに合わせ、右、左と動く。最初の頃は、ホコリが舞っているのかと思い、手で払おうとした。これでは勉強に集中できるわけがない。
 特に明るいところではお手上げだった。透明な物体が視界に広く入る。目を酷使しない、ビタミン類など栄養の摂取など努力はしたが、目の前から消えることはなかった。

 今でも飛蚊症が治ったわけではないが、いつの頃からか気にならなくなった。目の前を飛んでいても、「自分の分身の一つだ」と思うようになった。
 高校生の頃は「悩んでいるのは自分だけだ」と思い込んでいたが、周りに同病者がたくさんいると知ったことも、悩みから解放された理由だ。
 飛蚊症には失明につながる恐ろしいケースもあるので、定期的な診察を受けている。60年間、症状は続いているが、最悪の事態は免れている。

 最近、パソコンなどの液晶画面を見ることが多い。これは飛蚊症にとって苦痛だ。明るい画面を透明な物体が、右往左往する。高校時代だったら、到底集中できなかっただろう。液晶画面は、目を一層疲れさせる。ブルーライトをカットするというメガネを使用しているが、効果のほどは分からない。
 若い人が新幹線の車中でワープロを打っているのを真似て、チャレンジしたが、電車の揺れも加わり、30分もすると目は、ギブアップ状態だった。

 デジタル教科書の本格導入が議論されている。理科の実験や語学の発音などは、デジタル化の長所をフルに発揮できるだろうが、教科書の全面的デジタル化には反対だ。
 私は、教科書を赤鉛筆で線を引いたりしながら、何回も熟読し、一つの教科の全体像を把握した。教科書の内容は、自然と記憶できた。小学生時代の教科書は、今でもところどころ覚えている。
 デジタル書籍は、反復して読む気にはなれない。画面の消滅と同時に書籍の内容が頭から去っていく。いつでも簡単に検索できると思うと、記憶する意欲が湧かない。
 デジタル社会で育った世代の頭は、違うのだろうか。私のように飛蚊症など目の病気に悩む生徒は、いないのだろうか。 

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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