社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2022.09.01

第115回 アンチ経年劣化

 現在、私のマンションは大規模修繕が進行中。5カ月間も要するが、今年の夏は、ことのほか蒸し暑かったので、不快極まりなかった。
 建物が黒いネットですっぽりと覆われ、風が入らず、部屋が暗くなる。足場の上で作業が行なわれるので、日中も部屋のカーテンをびっしりと閉めておかねばならない。
 大規模修繕に入る前に事業者による説明会があった。築15年を過ぎて方々が傷んできたので、マンション価値を維持するためには大規模修繕が必要だという。確かに新築時のピカピカさはなく、汚れてきたが、どこに不都合があるのか、素人には分からない。業者から、「経年劣化です。どのビルでも起きるのです」と説明されると、「仕方がないのか」と大変高額な修繕費も納得せざるを得ない。

 経年劣化という言葉は、それ以上の説明は不要という響きを持つ。確かにあらゆる物は、時間の経過とともに劣化することは運命かも知れぬ。
 しかし、最近の製品は耐用年数が短すぎると感じる。とりわけ電気製品は、数年過ぎると、どこか調子がおかしくなる。購入して10年くらい経った電気冷蔵庫が故障したとき、町の電気屋に相談すると、「寿命ですね。修理するよりも買い替えた方がお得ですよ」と言われた。それでも最低限の修理をしてもらい、5年後の今もあえぎながら何とか持っている。

 昔の電気製品の方が、もっと長持ちしたのではと感じる。たとえ故障しても修理をして使った。メカに強い同級生は、頼まれればお礼も取らず直してくれた。電気製品をいじるのが好きで堪(たま)らないという感じだった。
 電気冷蔵庫が登場する前は、氷を使った冷蔵庫だった。資産家の同級生の台所にどっしりとしたこの種の冷蔵庫が置かれていた。遊びに行くと、そこから冷えたサイダーを出してくれた。これは戦前からあったらしいが、100年使ってもびくともしない貫禄を感じさせた。

 人間も経年劣化する。医師から「老化現象ですね」と言われると、諦めの気持ちと病気ではないのかとほっとする気持ちが交差する。
 でも経年劣化は、本当に避けられないのだろうか。石は、磨けば磨くほど輝く。人間の身体も精神も頭脳も鍛えれば、劣化を防ぐだけでなく、向上させられないか。私は、これを信じて今も努力を重ねている。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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