社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)
済生春秋 saiseishunju
2013.05.09

第4回 祭の文化

 私の故郷は富山県高岡市である。日本海に面した人口約17万6千人ののどかな地方都市である。ここで18歳まで過ごした。

 高岡市では毎年5月1日に御車山祭(みくるまやままつり)が行われる。私は、昨年2012年から高岡市観光親善大使に任ぜらていたので、市観光協会から祭の招待を受けた。御車山祭を見るのはおよそ半世紀ぶり。私の幼い頃の記憶にあるのは、曳山(ひきやま)が空に覆いかぶさるように巨大で色彩が真っ赤で鮮やかだったこと、曳山を押す若者の声が勇ましかったことである。

 半世紀ぶりにみる曳山では、記憶に残っていないことに注意が向き、惹きつけられた。側面に施されている銅細工や漆、台座の人形などすべてが、超一流の芸術作品である。御車山祭は、加賀前田家2代当主の前田利長によって400年前に始められた。京の祇園祭から直接の影響を受けた。歴史と文化の固まりである。これを支えた商人の財力と職人の技術力に驚嘆した。

 高岡市は中心市街地の空洞化に悩む。だが、歴史が築いた文化は、群を抜いている。文化の力は、地域振興に活用できるはずである。富士山の世界文化遺産への登録が、関係自治体を活気づけているように。

 20年前に厚生省(現厚生労働省)で保健医療の仕事をしていたとき、私は『健康文化都市』建設を提言した。「健康と文化は何の関係があるのか」と、省内や大蔵省(現財務省)の理解を得るのにずいぶん苦労した。丹羽雄哉厚生大臣が最大の理解者だった。広島県御調町(みつぎちょう。現在は尾道市)での山口昇医師の成功がヒントになった。
 健康づくりは、地域の特性を生かすと効果が上がる。地域の特産を生かした食事のメニューづくり、冠婚葬祭での飲酒習慣の改善、住民が楽しめる運動の開発。住民の抵抗感は、軽減される。全国各地のまちで個性的な試みが展開された。

 医療や福祉は、地域の伝統文化と結びつけると素晴らしい成果が期待できる。私の故郷、高岡市が御車山祭で醸成された伝統文化をどのように使ったらいいか考えながら、帰路の列車に乗った。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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