社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)
済生春秋 saiseishunju
2014.10.08

第21回 ケモノたちとの距離

 36年前、福井県で自然保護課長を務めていた。30歳代前半でエネルギーにあふれていた。白山国立公園の山奥に分け入ったり、越前加賀海岸国定公園の岩場の海岸線を歩き回った。大野市の山深い所で、九頭竜川を挟んで対岸にツキノワグマがいるのを発見した。川幅が広かったので、接近する危険性は、感じなかった。多分クマも同様だっただろう。向こうは、不思議そうに私たちを見ていた。歩き方は、ゆっくりしてかわいい。
 今秋はツキノワグマの人家への出没が例年以上に伝えられている。山のどんぐりが不作のため、冬眠前の栄養補給に食べ物を求めて山を降りて来る。地球温暖化の進行、中山間地域の荒廃などが原因で、クマに罪はない。
 元来日本は、生物多様性に富んでいる。イギリスと比べても、ケタ違いに日本の方が生物多様性では勝っている。イギリスは、牧場の開発で森林を伐採し尽くしたためだ。でも今や日本の自然も、荒れる一方だ。

 10月初め、水戸済生会総合病院がモンゴルの医師4人を研修に招いた。10月3日、済生会本部に表敬訪問があった。話の途中、私は、「今でもモンゴルにオオカミは、たくさん生息している?」と尋ねた。すると、目を輝かせ、モンゴルではオオカミは、神のように大切にされている、我々の祖先は、オオカミであると伝えられているという。オオカミは、人を襲うことはないと話す。
 日本でも秩父の三峯神社のようにオオカミを神として崇拝する地域はある。しかし、明治に入って人為的に駆除されたり、海外から入った狂犬病などのため、明治38年にニホンオオカミは絶滅した。
 増加しているシカやイノシシの対策のために、ニホンオオカミと遺伝子が近いモンゴルのオオカミを日本の山に離したらと提案をしている自然保護活動家がいる。
 私は、オオカミの野生性に魅かれる。満天の星の下で吠える姿を想像すると、孤高で気高く思える。西洋には「赤ずきんちゃん」のようにオオカミを悪者にした童話が多いが、日本にはほとんど存在しない。オオカミは、日本人と暮らしをともにしてきた。

 ニホンオオカミもニホンカワウソも絶滅、ツキノワグマは、九州では姿を消し、西の方から減っている。ケモノたちが住めなくなった日本は、哺乳類である人間にも住みにくくなった。  

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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