社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2014.11.10

第22回 青春の迷路

 10代の後半は、楽しいことは何もなかった。苦難が一挙に押し寄せてきた。自分だけでは抱えきれないと思った。体にも影響を与え、円形脱毛症は序の口で、体重は40キロ前後をうろちょろしていた。孤独な青春の日々だった。
 
 11月1日、福岡県小郡市にある県立三井(みい)高校で創立100周年の記念講演を行った。同校OBで、親交のある部落解放同盟中央本部執行委員長の組坂繁之さんからの依頼である。
 講演は慣れているが、若い人に話すのは苦手だ。環境事務次官をしていた時に、長野県塩尻市の贄川(にえかわ)小学校(平成19年3月閉校)で1年生から6年生までの全校児童25人に環境の話をした。どのように飽きさせないで分かりやすく話すか、大変苦心した。山あいの純真な子どもたちだったので、みんな我慢強く、最後まで付き合ってくれた。私は、汗びっしょり。

 私は、現在の高校生の知識や理解力の程度が分からない。関心の対象もつかみきれない。鎌田哲郎校長は、「福祉教養コースがあるから福祉について話をしていただければ」と気を使われた。
 三井高校は、「スポーツ健康コース」もある。ソフトバンクホークスの帆足(ほあし)和幸投手、オリンピックに2度出場したレスリングの池松和彦選手などを輩出している名門校。私の専門である福祉に限定してはつまらない。
 そこで私の高校時代の経験をもとに10代の志を大切にし、努力を継続する大切さをテーマにした。苦しい体験の中から自分の生涯の志が固まっていく。それを実現していかなければと語りかけた。
 学校の校訓は、「自律、礼節、剛健」。これを実践するかのように生徒諸君は、45分間の私の拙い話にじっと耳を傾けてくれたのはうれしかった。これほど熱心な聴衆に出会ったのは、稀有(けう)な体験である。

 振り返れば、青春時代の苦労は、現在の私を形成してくれた。逆境と屈辱の経験は、心に傷として残り、片時も忘れない。奮起のバネになる。
 小学生の時に読んだ野口英世もキュリー夫人の伝記も、若いころの苦労で詰まっていた。私には励みになった。これは永遠の真理だと思うが、苦労よりも要領が重んじられる世の中になったと嘆くのは、私が時代遅れのためだろうか。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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