社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2015.01.08

第24回 雪原の輝き

 東映が製作した同和問題をテーマにした映画に、私は、ほんの少しだけ登場する。撮影時間は、1時間だったが、使用されるのは2~3分程度。今年度の法務省予算で製作された人権啓発映画である。プロが製作した映画は、敬遠されがちな難しい人権問題を楽しみながら学べるように工夫されている。

 映画館の大スクリーンと音響が醸し出す迫力には、家庭でのテレビは、歯が立たない。面白いだけでない。学べることもたくさんある。「人生に必要なことはすべてゴッドファーザーで学んだ」というセリフを耳にする。私は、『ジャッカルの日』のあの徹底的な用意周到さが印象的だ。

 これまで見た映画で強く記憶に残っているシーンがいくつかある。
 ソフィア・ローレンが主役を演じた『ひまわり』を見たのは、45年前と昔のことである。しかし、ソフィア・ローレンの沈み込んだ心と対照的な明るく輝く広大なひまわり畑のシーンは、目に焼き付いている。ヘンリー・マンシーニの哀調を帯びた旋律は、明るく陽性のはずの一面のひまわりを一層悲しく見せる。
 同じ時代に見た『ドクトル・ジバゴ』の大雪原のシーンも忘れ難い。ロシア革命で混乱するモスクワから大雪原を突き抜けて逃げるジバゴ。モーリス・ジャールの傑作『ララのテーマ』のメロディーが流れる。歴史の激流に踊らされる人間の悲劇が、純白の大雪原の中で展開する。

 今年の元旦の早朝、越後湯沢駅からほくほく線・北陸本線を走る「特急はくたか号」で高岡駅に向かった。
 近頃日本海側も雪は少なくなったが、去年暮れからは大雪だった。列車が運休するのではと心配したが、時刻表どおり運行された。新潟の山間を縫い、荒波の日本海に沿い、富山平野を突き抜ける。列車は、人も動物も足を踏み入れていない真っ白な雪原の中を走る。雪原は、太陽の光を反射して輝く。新しい年を迎えるにふさわしい。心は清々(すがすが)しく、しゃきっとする。
 よそからの旅行者は、雪が煩わしくないかと考える。でも雪国の人は、当然のように受け入れ、春を待つ。雪国の人の忍耐強さは、これに形成されてきたのだろう。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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