社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2015.06.05

第29回 衰えぬ情熱と夢

 最近続けて、知人3人から著書が送られてきた。いずれの方も私よりも年長である。1冊の本を書くには大変な労力を有するが、それにも増して驚くのは、著書で明らかされる本人の経験や挑戦ぶりである。

 82歳になる林武雄さんの「ふくいの野鳥史」は、自費出版である。林さんは、子どものころから野鳥に親しみ、県職員として一貫して自然保護行政を担当、退職後も野鳥保護のボランティア活動を行っている。福井県の野鳥保護は、林さんによって確立・発展してきたと、県民の誰もが口をそろえる。
 今度の本は、自分の歩んで来た道を述べ、これからの野鳥保護の方向を提示する。野鳥保護の現状に心配が尽きないようだ。基礎になった資料を長年よく整理保存しているのも感心させられる。

 大木紀元さんの「日仏夢の懸け橋 日本シャンソン館」(セレレ)は、世界初のシャンソンミュージアムを企画・設計し、シャンソン歌手の芦野宏氏(2012年死去)らと力を合わせ、1995年に群馬県渋川市に設立するまでの苦労をまとめた本である。
 大木さんは、美大学生時の昭和35年に「ダッコちゃん人形」の企画デザインをし、日本に一大ブームを巻き起こした。私と同世代以上の人で知らない人はいない。その後も商品やまちづくりなどに才能をいかんなく発揮、今日でも衰えを知らない発想力と行動力は、驚嘆するだけである。

 旧厚生省の先輩である伊原正躬(まさみ)さんの「恋人たちの風景」(竹林館)は、ピエール・ロチの小説の舞台となった各地への旅行記である。19世紀後半に活躍したフランスの小説家ロチは、フランス海軍士官だったが、世界各地で軍務に就いた。任務地のトルコ、タヒチ、セネガルなどが小説の舞台となった。長崎にも滞在、小説「お菊さん」を書いている。
 伊原さんは、小説の舞台であるセネガルも旅をする。パリ経由での一人旅である。出入国手続きを始め、国内での移動、食事、病気などにも途上国ならではの苦労が襲う。小説の舞台を確認するためという強い意欲は、感動的だ。

 アメリカの詩人ウルマンの有名な詩「青春」の「青春とは、人生の或る期間を言うのではなく、心の様相を言う」は、納得できる。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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