社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2022.11.30

第118回 ふらつく足

「この辺りはきついなあ」と11月下旬の予定表を見ながら、ため息をついた。
 まず岩手県北上市に東北新幹線での日帰り、翌日に1泊2日で大阪市に出張、4日後には京都市に東海道新幹線での日帰りと続く。

 この間に都内のホテルで済生会として大きなシンポジウムを開催しなければならない。私が20年以上にわたって取り組んできたソーシャルインクルージョン(社会的包摂)の理念を日本社会に普及させるためのシンポジウムで、ぜひとも成功させたいと意気込んでいた。
 記念講演は、小池百合子都知事にお願いした。これまで一緒に活動してきた人にも参加を呼びかけた。北海道帯広市や沖縄県那覇市を含め、全国各地からたくさんの人が参加してくれることになった。
 私の精神的ボルテージは、いやがうえにも上がっていたので、気力で乗り切れると自信があった。

 大阪・釜ヶ崎での済生会大阪支部の無料健診事業に加わる出張から戻った翌日、朝から職員研修所で1時間45分間、人権・同和問題の講義を行なった。私のライフワークだから、講義をするのは勉強になるし、楽しい。疲労感はなかった。
 しかし、その日の午後、2時間の白熱した別の会議の終了後、立ち上がって歩こうとすると、体がふらつく。まっすぐ歩けない。左へ左へと体が動く。自分の意思通りに動いてくれない。
「脳梗塞の前兆か」と不安がかすめた。ただ10年前に過労によって似たような症状を経験したことがある。同じだろうと考えることにした。翌日のシンポジウムは、何が何でも成功させねばならない。
 その日は早めに寝て、ひたすら回復を祈った。

 翌朝は早く目が覚め、自宅の周りを10分程度注意しながら歩いた。やはり体が揺れてまっすぐ歩けない。でも、前日より少しましのようだ。
 本番のステージでまっすぐ歩けるか、40分間立ったまま話せるか心配だった。が、何とか切り抜けられた。参加者にさとられることはなかった。

 シンポジウムの翌朝には完全に回復した。やはり過労と強度の緊張が原因のようだ。精神力だけでは通用しない。年齢相当の自己管理が必要だと痛感させられた。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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