社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2024.02.05

第132回 年賀状の運命

 元旦に届いた数枚の年賀状には「高齢になったので、勝手ながら今年をもって年賀状の交換を止めさせていただく」と記載されていた。中には環境保護のためや配達をする人の負担軽減のためという理由が付加されていた。
 企業の虚礼的な年賀状も大幅に減少した。亡くなる人も増え、交換する年賀状も、めっきり減った。
 日本郵便の年賀状の販売枚数は、著しく減少している。ピークだったのが2003年の44億枚に対して今年は14億枚だという。
 デジタル世代の若い層の紙離れも大きい。年賀状はもとより日常の手紙さえも書いたことがない若者が増えてきた。日本文化は、大きく変化しつつある。

 年賀状全盛の時代は、12月に入ると、職場で「年賀状をまだ書いてなくてね」と焦る声をよく聞いた。私が官庁勤めをしていたころは、12月は予算関係作業のため1年で最も多忙な時である。年賀状を書き始めるのは、御用納めに入ってからが常だった。
 そのため毎年、書き終えてポストに投函し終わるのは、除夜の鐘が鳴っているころ。私と同様な人が多いと見えて、ポストは投函された年賀状でいっぱいだった。

 それほどまでに苦労して書き終えた年賀状は、それなりに報われたと感じることが多かった。
 私は、できるかぎり一人ひとり伝えたいことを余白に書く。仕事で悩んでいる、闘病中である、親の介護をしているなど、人はさまざまな問題を持っている。簡単な言葉でも相手に励ましとなればと考えている。私もほんのわずかな添え書きに元気をもらった。

 以前は思いがけない人から年賀状が送られてくることがあった。
 長く交流が途絶えていた人からの年賀状はびっくりもしたが、懐かしく嬉(うれ)しかった。年賀状1枚で心が再び繋(つな)がったような気がした。改まって手紙は書けない。年賀状だから出せたのだろう。
 パーティで懇談した人から送られてくる年賀状もあった。互い気が合い、同じ目標で協力できるのではと自分も思っていた場合などは、年賀状が縁を築いてくれた。

 メールは便利だが、年賀状ならではの効果がある。はがきの料金が63円から85円へと大幅値上げが検討されているが、それだけに来年の年賀状は心を込めて書こう。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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