第160回 探し物の日常
「私のスマホを鳴らして」と妻が言った。私の家ではいつも起きる日常風景だ。エアコンのリモコン、メガネ、家や自動車の鍵は、探し物の常連である。
私は、妻の紛失物を簡単に見つけることができる。まずは落ち着いて、ゆっくりと紛失した物、紛失した経緯を聞き取る。メガネであれば、テレビを見た後か、本を読んだときかなどを聞き、場所を推測する。次に人間の心理からメガネであれば、踏まれないように高い場所に置くはずだ。このように推理した場所を丹念に探せば、たいがい見つかる。
病院やクリニックの診察券を入れたケースが紛失したことがある。一緒になってハンドバッグやショッピングバッグをひっくり返したが、見つからない。歯科の治療の際に使ったのが最後らしい。クリニックに問い合わせたが、忘れ物にはなかった。帰宅途中で落とした可能性もある。
すると悪用されるのではないかと、無用な不安が起きてくる。消費者金融の借り入れの証明に使われるとか、ありえないことが想像される。
念のため交番に届けることにした。お巡りさんは、紛失届には慣れたものでさっさと受け付けてくれた。
今でも見つからない。悪用された気配もない。どこかでごみとして燃やされたのだろうか。
ところで私の方は、小さいころから物を紛失することは少なかった。余裕のある家庭ではなかったので、物を大切にする習慣があった。数少ない雑誌や本は、宝物のように繰り返し読んだ。物差しやコンパス、筆箱などは、小学校6年間、一つだけで十分だった。
この習慣は、長い間維持されてきたが、加齢のためか、書類や資料などが増えてきたためか、私も探し物をすることが生じてきた。
このための対策を講じていることが一つある。仕事や原稿執筆のために膨大な本や資料を使うが、それに必要な本や資料の保管場所をパソコンに打ち込んでいる。
大半の人は、パソコンの画面で資料を読んでいるが、私は、紙でないと頭が働かない人間である。
この保管場所リストは、今では大変役に立っている。以前は紛れ込んだ資料を探すのに相当の時間を浪費したが、今は容易に辿りつける。リストはどんどん膨らむが、頼りになる存在である。
すみたに・しげる
1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。
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