社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2016.03.10

第37回 花粉症に流される日々

 スギ花粉シーズンの本格化である。
 30年間、花粉症と付き合って来た。40歳を過ぎたころ、目がかすむので、「老眼になったのかな」と思っていたが、実は花粉症だった。30代後半にイギリスで暮らしていた時、タイムズ紙の最終面に「花粉情報」が掲載されていた。当時日本の新聞では見なかったので、必要性がピンと来なかった。いざ自分が花粉症になると、納得がいく。

 薬を服用すれば、不快さから解放されるが、眠くなる。3年前に眠くならない薬を飲み続けたら、それが原因か分からないが、γ-GTPが上昇したので、飲むのを止めた。実兄が肝臓病で亡くなったので、肝臓には神経質になる。
 週刊誌などでヨーグルト、紅茶、ビタミンCなど民間療法が紹介される。効き目があった人もいるが、私の場合はどれもダメだ。幼少時から蕁麻疹(じんましん)、アトピーなどアレルギーに悩まされてきたから、体質に起因しているのかと諦めている。
 耐えるだけである。じっと耐えておれば、5月の連休明けには五月晴れのように花粉症から解放される。苦痛の2カ月間だから、この時の爽快感は、格別である。

 花粉症の原因は、人間の行為にある。戦後荒廃した山を緑にすべく、植林が進められた。この時期に小学生だったが、社会科の授業では植林の重要性が教えられた。当時、映画館ではニュースが放映された。そこでは、時々、小中学生が植林に汗を流す様子が報じられた。
 スギは、成長が早く、管理が容易である。建材として経済的な価値があったから、植林の樹種として選択された。日本の山にはそれぞれの気象や土地条件に合致した植生がある。潜在自然植生である。全国どこでもスギが望ましいわけでない。戦後全国的に行われたスギの植林は、経済面重視で視野の狭い見方からだった。

 沖縄島で戦前にハブ退治のために天敵であるマングースが持ち込まれたのも同様のミスだ。マングースは、ハブ以外の絶滅危惧種であるアマミノクロウサギやヤンバルクイナをはじめ、様々な生物を食べるため、生態系をかく乱させた。

 社会や経済の世界も同様である。一つの目的だけに囚(とら)われると、全体の利益に反することが生じることが多い。そのことを、私たちは、いつも経験している。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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