社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)
済生春秋 saiseishunju
2016.09.13

第43回 方丈記の世界

 台風10号が東北地方に上陸した。昭和26年に台風統計を取り始めてから初めてのことだ。2004年にハリケーンが初めてブラジルを襲った時は、地球温暖化が進行しているためだと言われた。今年の台風の進路、強度が昨年までとは違うのも地球温暖化のためだ。これからの台風は、強度が増し、経験のない地域を襲うと覚悟しなければならない。

 私は、富山県高岡市で19歳まで生活した。「富山県は、災害が少ない」と県民は安心している。19歳までに経験した災害は、昭和38年の「三八豪雪」くらいだ。何度か台風は襲った。大人たちは、板戸が飛ばされないように打ち付けるなど備えをしたが、大きな被害は出なかった。
 水害対策が不十分だった昭和20年代、千保川という小さい河川は、豪雨が降ると氾濫(はんらん)した。河川に近接した広場に水があふれる程度の被害だった。私たち子どもは、広場に長ぐつで入り、フナなどを捕まえた。洪水後の牧歌的な風景だった。

 しかし、これからは全国どの地域も危ない。「災害フリー」の地域は、日本には存在しなくなった。近年もすでに地震、竜巻、台風などによって、以前に経験したことのない被害を残している。

 1212年に書かれた方丈記は、災害のドキュメンタリーである。高校2年の夏休みは、市立図書館で方丈記を始め、大鏡、平家物語、太平記など平安から中世の古典を読んで過ごした。激動した時代に織りなす人間の心理と行動は、今日と変わらないという真理を学んだ。

 方丈記には、大火、竜巻、2度の飢饉(ききん)、元暦(げんりゃく)の大地震の5回の災害が詳細に記述されている。作者の鴨長明(かものちょうめい)は、ジャーナリストのように現場に出向き、詳細に記録を残している。平家物語の記述も、この方丈記に依(よ)っている。
 飢饉では少ない食べ物を分けなければならない家族では、愛情が深い方が先に死んでいった、大金を使って立派な家を建てても災害によって無になるので無駄なことだ、元暦の大地震では、津波が起こり、激しい余震も3カ月続いたので、人々は世の無常を口にしたが、月日が経つと言う人はいなくなった等々、現在でも当てはまる。

 鴨長明は、世の無常から隠遁(いんとん)生活に入ったが、現代の我々は、災害と向き合っていかなければならない。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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