社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)
済生春秋 saiseishunju
2016.08.04

第42回 上海の不思議

 7月29日、30日と1泊2日のほんの短い上海滞在だった。済生会が上海健康医学院と協力協定を締結するための旅だった。仕事の関係は、順調に進んだ。

 国際的に活躍する核医学者である黄钢(ファン・ガン)学長は、快活な人柄で指導力のある人物だ。済生会との協力関係には前向きである。大学キャンパスを2カ所視察した。夏休み中で、学生の姿は、見えなかったが、勉強にはふさわしい環境である。

「百聞は一見に如(し)かず」で、将来に向けた大学の発展性を実感した。今回締結した協力関係は、両者にとってウインウインになるに違いない。

 上海は、初めての訪問だった。上海は、人口2千万人を超える中国最大の都市だが、路上にごみは落ちていない。治安も良い。ビルの建設が方々で行われ、活気が伝わってくる。伝えられる中国経済の低迷は、表面的には分からなかった。

  上海は、不思議な町である。過去と未来の世界が同居する。近代的な高層ビルが林立する谷間に戦前のヨーロッパ仕様の建物が存在感を示す。中国人に加え、多様な人種の人たちが往来する国際都市である。町行く人の服装や動きは、世界の縮図である。しかし、ニューヨークやロンドンとは違った、底の知れない多様性、複雑性を感じさせる。

 上海の不思議さは、私の先入観からくるのかも知れない。

 3年前、山口恵以子が「月下上海」で松本清張賞を受賞して話題になった。山口は、長い間、従業員食堂で調理の仕事をしながら小説を執筆してきたという経歴が珍しがられた。

「月下上海」は、戦前の上海を舞台に財閥令嬢が日本のスパイとして活動する姿を描いた小説である。この小説は、完全なフィクションだが、上海は、スパイ小説に似合う都市である。戦前は、列強の租借地があり、各国の機密情報が飛び交った。現実に列強各国は、情報戦を繰り広げた。日本の歴史上最大のスパイ事件を起こしたリヒャルト・ゾルゲも最初のスパイ活動地は、上海だったはずだ。

 こんな不思議な上海だから、地球の隅々から人々が集まり、活況を呈しているのだろうか。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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