社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2024.05.07

第135回 コインの重さ

海外旅行に行くと、自然とコインが溜(た)まってしまう。洋服のポケットが重くなり、破れそうになる。
外国の旅行先では、紙幣やコインの種類に慣れない、支払額が聞き取れないなどで、つい大きな額の紙幣で支払ってしまう。店員が正しい金額のお釣りをくれたかを確かめず、ごっそりとコインでもらう羽目になる。
旅の終わりには大量のコインを持つことになるが、そのまま日本に持ち帰る。
当初は海外旅行の思い出になるとか、知り合いの子どものお土産になるとか思ったけれど、そんな効果はなかった。次回の旅行で使えるとか、同じ国に行く人にあげようと思うが、これも実行したことはない。いつの間にかコインの山が、机の引き出しにできる。ほとんどのものは、どこの国の物だったかさえ分からない。
空港のロビーの片隅にコイン箱を置いて帰国者に寄付を呼び掛けていることがあるが、よいアイディアだ。

コインは個性が乏しいので、よその国のコインを間違ってもらうことがある。日本の500円と韓国の500ウォンは、酷似しているから間違いやすい。
その中で日本の5円、50円の穴付きは珍しい方だろう。イギリスでは40年前に滞在したころクイーンを描いた大きな7角形の50ペンスコインがあった。イギリスらしいずっしりした重さがあって価値が伝わり、好きだった。

私は、昭和の時代を背負う高齢者だからキャシュレスになじめない。クレジットカードは、フィッシングされるのでないか、紛失したら大変だ、無駄な買い物をしてしまうなど取り越し苦労をしてしまう。
コンビニなどで支払うときは、現金で支払う。高齢のおばあちゃんが使うようながま口に入れたお金で1円単位までお釣りがないように支払う。若い店員は、イライラした表情を露骨に示す。
さすがに後ろに客が列を作っているときは、大きいお金で済ませる。
最近はセルフレジの店が増えてきたのはありがたい。持っているコインを次々に投入する。10円玉、5円玉、1円玉を総動員してがま口を軽くする。大掃除をしたような爽快な気分になる。

私の抵抗にもかかわらず、キャシュレスが進行する。固定電話を知らないようにコインを知らない令和の若い世代が出てくる日も案外近いかも知れない。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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