社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2016.11.07

第45回 35年後のエディンバラ

 10月22日から5日間、リハビリテーション世界会議に出席するためエディンバラに滞在した。
 会議の参加者は1,400人で、盛況だった。今回から会長に中国人が就き、中国からの参加者は300人という大人数だった。ちなみに日本からの参加者は、私を含めて5人程度だった。会場内の展示も中国からの出展が多数を占めた。中国の存在感に圧倒された。
 会議では、途上国を含め、世界各国から一様にソーシャルインクルージョン(社会的包摂)政策の必要性が主張されたのは、最大の収穫だった。本欄でもソーシャルインクルージョンの必要性を述べてきたが、日本では一向に理解されない。この差は、なぜだろうか。

 35年前、家族でスコットランドを自動車で旅行した。宿泊先は予約をせず、日暮れ近くになると、安宿を探して泊まるという気ままな楽しい旅だった。スコットランドの自然や歴史を体に吸収し、感動した所ではゆっくりと家族で時間の過ぎ行くのに任せた。
 エディンバラは、その一つだった。エディンバラ城を中心に古い店舗、大学、銀行などが立ち並ぶ落ち着いた都市だった。アダム・スミス、哲学者ヒューム、作家のスティーブンソン、コナン・ドイルなどを生んだことが、「なるほど」とうなずけた。当時は観光客は少なく、住民の日常の暮らしが近くで見られた。
 パブの2階に構える古い宿に泊まった。11時ごろまで階下がざわついていたが、スコットランド人の暮らしぶりが感じられ、悪いとは思わなかった。
 ヨーロッパの他の都市と同様に、エディンバラは、オールドタウンとニュータウンに分かれる。しかし、ニュータウンと言っても第2次大戦後ではなく、18世紀に建設されたのだから、さすが歴史都市エディンバラだ。

 今回の再訪は、渡航前から大変楽しみだった。35年前の思い出のかけらをどこかで発見できるのではと……。
 しかし、エディンバラは、全く違った姿になっていた。市内は、観光客で埋め尽くされていた。日本の観光地にあるような土産物店が軒を並べていた。日々の暮らしを営む住民は、見つからない。中世から近世にかけての姿がカプセルのように残っていたあの古都の雰囲気は、どこに行ったのか。
 1995年に世界遺産に登録され、観光政策に力が入れられた。その結果、地域経済には大きな効果はあった。しかし、その変貌に寂しさを感じるのは、私のセンチメンタルジャーニーゆえだろうか。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE