社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2016.12.06

第46回 北日本新聞文化賞

 12月初旬、冬とはいえ大和路は、暖かった。冬の陽ざしが一面の畑を穏やかに照らしていた。
 奈良県に所在する済生会の中和病院と御所病院を用務で訪れた際、時間にゆとりが生じたので、キトラ古墳と飛鳥寺を訪れた。
 キトラ古墳に隣接して設置された四神の館は、古墳の内部を再現している。天井の星座図は、古代人のロマンを伝える。石棺を囲む青龍、白虎などの四神の壁画は、華麗だ。

 飛鳥寺は日本最初の寺院である。止利仏師作の釈迦如来像の柔和な顔は、その日の天候と同じだ。1400年前、釈迦如来像の前に座した聖徳太子は、国家の平安とおのれの心の安定を求めたに違いない。太子の時代は、殺伐とした事件が絶えなかったのだから。
 時空を超えて今も祈りを捧げる人に安らぎを与える。銅製の仏像は、金属の冷たさはない。木とも石とも違う特有の美を放つ。   

 飛鳥の地は、大和朝時代の雰囲気を保っている。地域丸ごとが古代の絵なのだ。悠久の歴史を抱える地は、特有の味わいがある。喧騒(けんそう)に疲れ切った旅人に一時の安らぎを与えてくれた。  

 イタリアのフィレンツェも同じだ。最も好きな都市の一つだ。ルネッサンスを生み出した都市は、今日もその時代の原型を保つ。  
 ウフィツィ美術館をはじめ膨大な美術作品群は、言うまでもない。それよりもミケランジェロ広場のある小高い丘に登って町全体をのんびり一日眺めていても十分だった。アルノ川の流れ、褐色の屋根の建築物群などは、ルネッサンスを切り取り、21世紀にはめ込んだようだ。  

 文化は、人に安らぎ、癒やし、そして活気を与えてくれる。
 11月2日、私の出身地の新聞社から「北日本新聞文化賞」を授与された。昭和23年に始められ、芸術や学問に貢献した人に与えられる伝統ある賞である。  
 私が対象になるなどは、青天の霹靂(へきれき)だった。長年の福祉活動や環境福祉学の構築を評価していただいた。文化の力を知ると、この文化賞は、ことのほかうれしい。大きな励みをいただいた。「もっともっと努力しなくては」と決意を固めている。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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