社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2020.02.03

第84回 ストレス解消法の進化

 健康のためにアルコールを断って、今月、10年目に入った。
 40年以上、ストレス解消のため(名目だったか?)、毎晩飲んでいた。夜の付き合いも週の半分以上はあった。大変楽しく、仕事に役立った。
 しかし、還暦を過ぎたころから健康に自信がなくなった。父は下戸だったし、兄は67歳で肝臓がんで亡くなったので、かねてから私のDNAは、アルコールに弱いと思っていた。そこで65歳の誕生日を期して完全に止めた。
 適正飲酒であれば、むしろ健康に良いらしいが、一滴でも飲むと堰(せき)を切ったように元に戻るのが怖かったので、乾杯の際も飲まなかった。

 代わってノンアルコールビールが救いの神だ。宴席でも不自由しない。最近の日本のノンアルコールビールの質は、著しく向上した。きっと世界でトップだろう。
 4年前、ビールの本場ドイツでノンアルコールビールを飲んだが、日本の方が上だった。
 途上国では現地産のノンアルコールビールをなかなか見つけられない。社会の発展に比例してアルコール度数の低いものが好まれるという法則が、私の仮説だ。

 アルコールを止めると、ストレスの解消をどうするかという新たな問題に直面した。以前は飲酒が、最も簡単で唯一の方法だった。
 代わって登場したのは、早歩きだ。飲酒を止めると、夕食後たっぷりと余裕ができた。これをウォーキングに当てた。
 毎晩9時ごろから5.5キロを1時間で歩く。かなりの速さだと思っているが、若い人は、どんどん追い越していく。
 何も考えず、周りを見ながら黙々と歩く。今は夜空に冬の大三角形が美しく輝く。とりわけシリウスが好きだ。恒星で最も明るく、冬空での存在感は大きい。
 オリオン座のベテルギウスは、段々と暗くなっている。近く超新星爆発を起こして消滅するといわれる。哀れに思えてくるが、それは遙(はる)か先のことだろう。

 星空の悠久の時と無限の広さに比べると、私たちの日々の出来事などは、ちっぽけなものだ。夜空の下でのウォーキングで健康的な汗を流すと、ストレスも消えていく。
 私のストレス解消法は、上品に進化したものだ。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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