済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
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今春の桜ほど注目を集めたことはない。
開花は、平年よりも早かったが、都内の公園では、宴会自粛が求められた。
私が居住する東京都目黒区には旧陸軍の広大な練兵場があった。その名残だろうか。マンションの近くに3本の老いた桜の大木が、どっしりと立っている。ソメイヨシノは、寿命が短いというけれど、今年も四方に張り出した太い枝から空を覆うばかりの花が咲いた。
近くにはテレビで頻繁に伝えられる目黒川沿いの桜並木がある。新型コロナ感染に無頓着なのだろうか、宴会をする人はいなかったが、ビール片手にスマホ撮影する人であふれた。
この桜並木を若い人気アイドルとすれば、3本の老木は、歴史の荒波をくぐってきた名優だろうか。あのヘミングウェイの「老人と海」の老人の姿だ。
桜の季節になると、7歳ごろ家族で行った古城公園での花見を思い出す。
古城公園は、富山県高岡市の市街地の中心に位置し、前田利長が築城した高岡城跡の公園である。今でも春になれば、たくさんの桜が咲き乱れる。
4月中旬ごろだった。心地よい季節である。古城公園は、かなりの人でにぎわっていた。薄明るいぼんぼりに照らされた夜桜は、美しかった。音が時々変調するスピーカーから流れる民謡や歌謡曲は、華やいだ雰囲気を醸し出した。
公園の片隅には戦闘機の残骸が放置されたままだったが、敗戦の荒廃から徐々に復興を示し始めた時期である。両親は、苦しい生活の中でも子どもたちを喜ばせようと思ったのだろう。
料理が得意でなかった母が、それでも時間をかけて作った重箱の料理は、子どもたちにとっては滅多にないごちそうだった。父は、下戸だったので、酒を飲まなかった。5人の子どもたちは、はしゃぐでもなく、丸太のベンチに座って桜の花を見つめていた。風に舞う花びらは、美しかったけれど、流れ落ちていく姿は、寂しかった。
家族での花見は、この一度だけで翌年以降続けられることはなかった。日本経済の発展と逆行するように家業は、傾いていった。
でも私にとってこの一度だけで十分だった。亡くなって久しい両親の目いっぱいの愛情が、私の心に刻み込まれているからだ。
1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。