社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2015.03.18

第26回 地方は、立ち上がる

 3月15日、北海道国際交流センターの招きで函館に日帰りで出かけた。今年は、3月に入っても北海道は豪雪とニュースで伝えられたので、厚手の旅装に整えた。しかし、当日は、青空で寒くはない。観光客でにぎわっていた。海外からの客が目立つのは、円安効果だろうか。

 私が北海道国際交流センターの存在を知ったのは、数年前に講演の依頼を受けた時である。私は、団体名から国か地方自治体の関係団体だと思い込んだ。訪れてみると、純粋な民間団体だったのには驚いた。
 昭和54(1979)年に早稲田大学から函館市に近接する七飯町に16名の留学生のホームステイの打診があった。ごく普通の家庭が受け入れた。大変苦労したが、取り組んでみると本当に良い経験になった。これを継続させるため北海道国際交流センターの設立をし、今日に至った。草の根の国際交流である。日本で学ぶ留学生にとっては、大都会では体験できない日本の地方の生活や文化に触れることができるので、好評だ。

 北海道国際交流センターの運営の中心を担うのが、事務局長の池田誠さんである。11年間勤務したJTBを退職。安定した職場を去ったのは、自分の人生をもう一度見つめ直したかったかららしい。1年間、家族でニュージーランドを旅行して過ごした。帰国後2年間、北海道新得町にある共働学舎に勤務。ここは障害者や引きこもりだった若者など70名以上が酪農で共同生活している。
 今は函館で人が本当の幸せを実感できるまち起こしに向けて行動中である。私が現在取り組んでいるソーシャルファーム(障害者等がビジネス手法で就労する組織)の熱烈な支持者である。地元で設立できないかと考えている。

 当日は、まち起こしに関心を持つ人たちが50名程度、金森ホールに集まった。年齢も職業も様々。まさに梁山泊(りょうざんぱく)である。金森ホールは、倉庫を改造した施設で、港町函館の雰囲気を醸し出す。どんな事業が良いか、話し合いは、熱を帯びる。集まった人たちの多彩さは、人を引き付けて止まない池田さんの精力的な日常行動を窺(うかが)わせる。

 現在各地で「消滅都市になってしまうぞ」と警告がなされている。しかし、池田さんのような夢を追い、実行力のある人物がいる地域は、大丈夫だ。東京の模倣ではなく、地元に資源と文化を生かした独自の素晴らしい「まち起こし」ができる。そんなことを確信させる春近き北の国の日曜日だった。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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