社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2022.02.28

第109回 失態の連続

 昨年12月から1月中旬の間に落とし物や忘れ物の連続だった。メガネ、JRのSuica、万歩計、がまぐちと4回も続いた。
 慎重な性格なので、忘れ物や落とし物をすることは、少なかったはずだが、この1月は、何かにとり憑(つ)かれたようだった。

 高校時代から近視用のメガネをかけてきたが、65歳を過ぎたころ老眼のためか、普段はメガネが不要になった。しかし、会議で遠方のパワーポイントを読むときは、メガネが必要なので、携帯する。
 昨年12月ごろから名古屋市、横浜市、国立市、墨田区などでの会議に出席した。そのいずれかで置き忘れたと考え、次々に問い合わせたが、「該当なし」の返事。新幹線の車中かとも思ったが、無駄だろうと諦めた。

 Suicaの方は、済生会の車の床に落ちていた。万歩計の方は、自宅の部屋の片隅で見つかった。
 がまぐちは、タクシーの中で落としてしまった。下車後間もなく気がついた。少々のお金のほかに電子マネーのカードが2枚入っていた。領収書を受け取っていたので、焦りながらタクシー会社に電話をした。
 ところが返事が冷たいではないか。「現在車は、営業中だから、帰社後に確認して返事します」。これでは「後に乗った客に取られるではないか」と訴えても、連絡できないとの一点張り。
 幸い運転手が保管していたので、無事に戻ってきた。妻は、がまぐちは高齢の女性しか使わないから、後に乗った乗客が「おばちゃんが悲しんでいるだろう」と同情して、運転手に渡してくれたに違いないと言う。

 結局、メガネ以外は、戻ってきた。それにしてもなぜこんなに失態が続いたのだろうか。
 1月下旬、定期的な診察を受けた。妻がいつも私の健康状態を把握するため同行する。主治医は、データを見て「最近どうしたのですか」と驚いたように言う。ここ10年間なかった最悪の結果だった。
 そういえば、そのころストレスのため、深夜2時ごろに目が覚めた。1時間くらいはそのまま考え込んで眠れない毎日だった。それがじわりと体を脅かし、注意力が散漫になったのだ。私も妻も納得だった。
 医師は、できるだけリラックスするようにとアドバイスしてくれた。それ以降、落とし物や忘れ物は止まった。
 やはりストレスは、怖いものだ。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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