社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2022.01.31

第108回 日本語は面白い

 2月1日からプロ野球のキャンプが始まる。小学生時代からスワローズファンの私にとっては、今年は、高津臣吾監督の采配でスワローズ初めての2年連続日本一の可能性が期待されるので、ワクワクする。

 ところで野球用語ほど和製英語が多い分野はない。キャンプも和製英語である。アメリカではスプリングトレーニングと呼ばれ、キャンプは、キャンプをする場所を表すが、日本では公式戦に向けてのトレーニングとして使用される。
 黒川省三・植田彰著『こんなに違う日米野球用語小事典』(洋販出版)には野球に関する和製英語が説明されている。
 ナイター、デッドボール、ノーコン、ゴロ、トンネル、クッションボールなどは、和製英語の響きを持つので、判断がつきやすい。しかし、スピードボール、エンタイトルツーベースヒット、ホームイン、ファーストフライなどは、アメリカでも使用されていると思ったら、日本で作られた表現だった。

 日本人の造語能力は、素晴らしい。言葉には語源がある。漢文や英語などの転用もあるが、大半は、日本の風土の中で生まれてきた。
 井上靖の『あすなろ物語』(新潮文庫)は、中学生のときに読んで感動した。美しい日本語だったので、私の文章を書くお手本になった。
 この小説であすなろは、明日はヒノキになろうという意味で名付けられたと書かれてあった。あすなろというタイトルは、若者の成長を描く小説にふさわしい。しかし、語源学者の大家である吉田金彦の『語源辞典植物編』(東京堂出版)によると、あすなろの語源は、諸説あるようだ。
 公園で見るサルスベリは、猿が滑るほど幹が滑らかだから、そして椋(むく)の木は、老木になると樹皮が剥(むく)れるからというのは、実際の木を見ると納得できる。
 しかし、植物の名前の語源には俗説が多い。幼いころ大人から得意げに教えられたものにはこの類が多い。マテバシイは、待っていればそのうちシイになるからだと教えられた。木の名前を記憶するには便利だったが、正しいだろうか。

 体を用いた表現が日本語に多い。はらが煮える、はらが癒える、はらを括(くく)る、はらが太いなどなど、腹だけでもたくさんある。これらは人間の心身の現象を踏まえている。体の中心にある腹は、健康、情緒、知的活動に大きな影響があると体験的に理解できる。

 日本語は、日本人の知恵の塊だ。学べば学ぶほど面白い。             

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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