社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)
済生春秋 saiseishunju

2019.11.06 第81回 読書の秋

 最近は読書の秋という雰囲気を感じない。そもそも日本人の読書時間が大幅に減ってしまった。10月下旬に発表された文化庁の調査では月に1冊も本を読まない人が、半数である。
 大学生でもさえ同様だ。大学の勉強は、インターネットに全面的に依存する。確かに便利だが、ネットだけで本当の学問は身につくだろうか。
 怪しげな情報が混じっているだけでない。ネットの情報だけで済ませると、体系的な知識が絶対に修得できない。クイズ王になれても、真理の探究、新しい事象の解決などの応用力の修得には程遠い。
 以前、著名な経済評論家が「もはや本は不要。ネットで勉強を」と囃(はや)していたが、私は、「これでは日本の学問は、衰退する」と憤慨した。

 電子書籍が広く普及している。上記の文化庁の調査では、4分の1の人が利用する。これは個人の趣向の問題だろうが、私は、電子書籍が好きになれない。海外旅行では電子辞書を持っていくが、ほかは利用しない。
 理由は、いくつかある。
 視力が悪いので、画面から発せられるブルーライトが、目をひどく疲労させる。パソコン利用のときにブルーライトをカットするメガネを使用するが、すべては防ぎきれない。
 本を読む際、重要な箇所を赤鉛筆で線を引く癖が、小さい頃からあった。それをしないと、読んだ気にならない。線を引くと、頭に入ったような気になる。本当は違うが……。
 一冊の本を読み終わったとき、手で本の重さを感じながら、充実感に浸る。本箱に並べると、これからの人生の伴侶になって自分を励ましてくれる。
 だから私は、本については、頑固な守旧派で貫き通す。

 最近は、秋が短くなった。暑い季節が長い。次々に強大な台風が襲い、読書の秋にふさわしい静寂な時間が乏しい。
 私の高校生時代の秋は、庭から虫の声が聞こえてきた。丸い電球のスタンドの下でロマン・ロランの「ジャン・クリストフ」、スタンダールの「赤と黒」、クローニンの「城砦」など名作を静かに読んでいた。これが現在でも私に大きな影響を与えている。
 読書の秋は、時代が変わっても、若い世代にとって人生の基礎作りのために大切だと思う。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。