社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)
済生春秋 saiseishunju
2013.09.09

第8回 イギリスの若者たち

 近年、イギリスの若者の評判は、芳しくない。サッカーの試合でのフーリガンの騒動は、目に余る。7月中旬、イギリスに出張したとき、パブの前で屯(たむろ)している失業中と思われる若者を見た。イギリスも酷暑だったので、仕事が終わった夕方にビールを飲むのは、爽快であるが、仕事探しをせずに、昼間からジョッキーを傾ける姿は、好ましくは見えなかった。

 今回の訪問ではたくさんの魅力的な若者たちにも出会った。ロンドン東部の貧困地域で会ったJ.ブレイクモアさんもその一人である。彼は、10代に父親の仕事の関係で東京に住んでいた。サイクリングの愛好者であるが、仕事としては社会的に有意義なことをやりたいとずっと思ってきた。
 イギリスでも刑務所出所者や障害者が適切な就労の場を見つけることが困難である。そこで中古自転車を購入または無償で譲ってもらい、彼らが修理してインターネットなどで販売するビジネスを行うことにした。修理した自転車は、新品同様に輝いていた。ロンドンオリンピックの開催、ツール・ド・フランスでのイギリス人の優勝が後押し、売り上げは、倍々に増えた。今年は150万ポンド(約2億4千万円)の売り上げを見込んでいる。

 事業所は、3カ所構えている。私が訪れた事業所の地域は、途上国からの移民が多く、公園のベンチで失業者らしい人がたくさん所在無げに座っていた。ごみは散乱し、環境は悪い。こんな地域だからこそ刑務所出所者や障害者の仕事の場を創出することは、大変意義が大きい。これが社会的企業である。彼らを社会的企業家(ソーシャルアントレプレナー)と呼んでいる。

 社会的企業家を支援するソーシャルインパクト・インベストメントも近年盛んである。これは福祉、環境、人権など社会的に有意義な事業に投資するものである。でも投資によるリターンは、確実に得る。この資金を運用するK.リヒターさんにも会った。イギリスでは急拡大していると自信を持っていた。

 イギリスではこのような若者を輩出している。失敗を恐れず、新しい分野に挑戦する。活躍の舞台は、世界全体に及ぶ。
 最近の日本の若者は、海外での留学や勤務を望まない。チャレンジ精神が乏しい。語学のハンディを乗り越えてグローバルな活動をする若者が増えないと、日本の未来は暗くなるばかりだ。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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