社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2016.05.09

第39回 温泉の数々

 今年のゴールデンウイークは、日並びが良かったので、観光地は、どこもにぎわった。特に温泉地には、海外からの外国人もたくさん押しかけた。
 かつて休暇村協会理事長を務めていたが、修学旅行の利用がなくなり、個人や家族客が主体になったバブル経済時代のころから施設の経営には、温泉の有無が決定的な影響を及ぼした。温泉がない施設でも温泉を掘れないか検討された。実際に温泉が出ると、飛躍的に客数が伸びた。

 近年、私は観光で温泉地に宿泊することはなくなったが、仕事で出張した時に宿泊先が温泉地であることがある。最近では北海道・登別温泉に泊まった。豪雪時だったが、雪の中の静寂さがたまらなかった。大分県・日出(ひじ)温泉にも泊まった。別府湾を見下ろす高台のホテルだったが、「鏡のような海面」との形容がぴったりだった。
 しかし、仕事の途中だと懸案事項が頭に残って温泉を楽しむ気分にはなれない。やはり温泉地は、仕事から完全に離れた状態でないといけない。一石二鳥とはいかない。

 草津温泉や別府温泉のように大規模な温泉地は、非日常的な空間を作っている。温泉にゆったりと入ると、日常のストレスが発散する。数回温泉に入ると、2~3日後も肌が滑らかで、効き目が残る。
 温泉の医療効果の研究や利用は、ヨーロッパが進んでいる。ドイツでは、医療保険の給付対象になっている。バーデンバーデンは、世界的に有名な温泉を利用した保養施設のある町である。他にもドイツにはたくさん存在する。
 日本でも同じような温泉保養地ができないかと、有志で勉強を3年間ほどしたことがある。新潟県の著名な温泉をフィールドにして考えたが、地元の理解は進まず、中断したままだ。今でも日本の温泉地が発展する一つの方向は、ドイツがモデルになると思っている。

 温泉では面白い経験をする。福井県・芦原(あわら)温泉で朝風呂から出た時、「ここに置いたはず」と思った場所から私の浴衣や下着が消えていた。誰かが間違ったのだ。昨晩の深酒が残っていたのだろう。同行者に電話をして別の浴衣を持って来てもらった。客がいなくなった後、私の物でない一組の下着が残されていた。
 それ以降、脱衣場ではシャツの両腕の袖を縛っておく。これであれば,着た時に間違いに気づいてくれるからである。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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