デビューから35年、女優として円熟期を迎えた今も変わらない、明るく人懐っこい笑顔で登場してくれた藤田朋子さん。最新映画では初の老けメイク、しかも認知症を患う難役に挑戦。撮影当時の複雑な心境や、藤田さんの人生を変えた人物について、お話いただきました。

　震災で心に傷を負った主人公が、ある出会いをきっかけに前を向いて歩き出す。そのキーマンを演じた藤田朋子さん。重い認知症を患った主人公の恩師を演じるに当たっては、葛藤もあったという。

「実は私の父も認知症でした。演じながらどこかで自分の未来を予想してしまい、この役をきっかけに本当に記憶障害や手の震えといった症状が出てくるんじゃないか……。そんな不安の中、いつの間にか小田由美子という女性になれたと思います」

　その姿が観る人にとって信じられる世界をつくりあげ、心を揺さぶる作品となった。劇中、由美子が主人公に語りかける言葉「あなたに会えて本当によかった」は、そのまま映画のテーマともなっているが、藤田さんにとっての「会えてよかった人は？」との問いには、「夫です」と即答。「彼に出会っていなければ、これほど人生を楽しんでいる自分はいません。いつか女優でなくなったとしても、最期までずっとそばにいてほしいですね」

　プライベートでは、5年ほど前からリサイクル着物にハマっているのだとか。この日のコーディネートは、春らしい蝶々柄の小紋に愛犬と同じフレンチブルドッグ柄があしらわれた帯。「新緑の季節、この着物を着て、緑に囲まれた美術館に行きたいな！」と笑顔の藤田さん。その傍らにはきっと最愛の人がいるに違いない。

文：みやじまなおみ　写真：安友康博(機関誌「済生」2023年5月)
ヘアメイク：伊藤千栄子