社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2022.08.02

第114回 ふるさとの会の中止

 新型コロナのために今年夏の東京高岡会の会合は、中止になった。これで3年間中止という異常事態だ。
 東京高岡会は、私の故郷である富山県高岡市の出身者や縁故者が会員となっている組織である。会員数が多く、活発な活動をしてきた。私は、10年ほど前から会長を仰せつかっている。といっても、会のために何も貢献しない会長であるから、恥じ入るばかりだ。
 初代の会長は、先日逝去した漫画家の藤子不二雄Ⓐさんだったので、求心力の面で私などガクンと格落ちである。

 東京高岡会は、1年に2回、会合を開催してきたが、新型コロナのために2年間、中止になった。今年は7月30日に予定していたが、必ずできると踏んでいたものの、第7波の急速な拡大のため、3週間前になって急遽(きゅうきょ)中止の判断をせざるを得なかった。今の新型コロナは、戦後日本が経験してきた感染症とは全く違う。
 突然の中止で予約会場にも迷惑をかけた。2週間前まではキャンセル料が不要だったのはありがたかった。
 何よりも開催の準備作業に当たってくれた人たちには、中止の連絡などさらに重い負担をかける結果になった。どこのふるさとの会もそうだろうが、参加する人は高齢化している。事務作業を担当してくれる人も高齢化し、開催作業の苦労は、並大抵でない。会員の高齢化が最大の悩みだ。

 若い人がふるさとの会への参加が増えない理由は、いろいろ考えられる。故郷に対する愛着が薄くなった、会に参加するメリットがない、年配者が一緒だと窮屈だ、など。
 昔は、慣れない大都会に来て苦労が多かったときにお互いに励まし、助け合う役割が大きかった。ふるさとの会に出て、故郷の方言で気兼ねなく話すことによって生活をしていく活力を得る貴重な場だった。
 しかし、今は地方都市と大都市との壁は低くなったので、容易に都会に溶け込めるようになった。

 それでは、ふるさとの会の存在意義は何だろうか。
 人は、育った土地の風土が体にしみ込んでいる。私は故郷に訪ねるべき親族はなくなったが、ふるさとの会は、今では自分のアイデンティティを確認できる貴重な場となっている。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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