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2025.02.26
心アミロイドーシスは、心臓の心筋細胞と細胞の間にアミロイドタンパクが沈着することによって引き起こされる病気です。
アミロイドーシスとは「アミロイド」と呼ばれる通常の酵素で分解されない異常な線維状のタンパク質が全身のさまざまな臓器に沈着することによって、機能障害を引き起こす病気の総称です。複数の臓器にアミロイドが沈着する「全身性アミロイドーシス」と、特定の臓器にアミロイドが沈着する「限局性アミロイドーシス」に分類されています。
心アミロイドーシスのほぼすべての症例は、主に肝臓で産生されたトランスサイレチン(TTR)が4つ組み合わさってできた四量体構造が、遺伝子変異や加齢によって不安定化することが原因となる「ATTRアミロイドーシス」と、骨髄中の白血球の一種である形質細胞が異常に働くことで産生され、抗体機能をもつタンパク質・免疫グロブリンの軽鎖(AL)の過剰化が原因となる「ALアミロイドーシス」のいずれかです。
ATTRアミロイドーシスは、TTR四量体構造の不安定化により単量体に解離して、誤った折りたたみ構造(ミスフォールディング)になり、アミロイドタンパクが形成されます(図参照)。
アミロイドタンパクが心臓の筋肉に沈着すると、心臓が全身に血液を送るポンプの役割を果たせなくなり、息切れやむくみなどの心不全症状が現れます。「心房細動」という不整脈になると、脈が飛んだり動悸がしたりします。反対に、脈が遅くなってめまいや失神の症状が出ることもあります。
これらの心症状以外にも、手のしびれや疼痛を伴う手根管症候群(特に両手に症状が出ることが多い)、脊柱管狭窄症(腰痛や歩行障害)、左右対称性の感覚障害や筋力低下、消化器症状、舌が大きくなる巨舌、タンパク尿、出血傾向による紫斑など、全身の多様な症状を合併することがあります。
心アミロイドーシスは、原因不明の心不全や心肥大がある場合に疑われます。心臓MRIは心臓の動きや、形態の評価に役立ち、特に造影剤を使用する「心臓MRI」は、心筋のダメージを可視化でき、他の心筋疾患との鑑別に役立ちます。心アミロイドーシスの確定診断には、心臓を含めた臓器や組織の生検を行ない、病理組織学的にアミロイドが沈着していることを証明する必要があります。
また、AL、ATTRwt(後天性で遺伝子変異がない)、ATTRv(遺伝子変異が原因)アミロイドーシスのどれなのか「病型(タイプ)分類」を行なうことも治療を進めていく上で重要です。採血・尿検査で、異常な免疫グロブリンや軽鎖の増加・検出の有無によりALかどうかを鑑別し、疑われた場合は血液内科でさらに調べます。ATTRの診断には「99mTcピロリン酸シンチグラフィ(骨シンチグラフィ)」が役立ちます。ATTRvの診断には、遺伝子検査でTTR遺伝子変異の検出が必要です。
臓器や組織に沈着したアミロイドの除去を促す治療はまだありません。治療は、アミロイドの産生を抑制し、さらなるアミロイド沈着による臓器障害の進行を抑制することが目標となります。心アミロイドーシスの病型、心不全および臓器障害の重症度、全身状態、患者背景などを考慮して選択されます。
・ALアミロイドーシスの治療
アミロイドの元となる過剰に作られた免疫グロブリン軽鎖を低下させることが主な目的になります。自家造血幹細胞移植と化学療法の組み合わせ、もしくは、移植の適応がない場合は標準治療として化学療法が推奨されています。
・ATTRアミロイドーシスの治療
ATTRwtアミロイドーシスでは、TTR四量体構造を安定化する治療薬としてタファミジスが推奨されています。ATTRvアミロイドーシスでは、肝移植、タファミジス、遺伝子治療薬(核酸医薬)のパチシランとブトリシランの有効性が証明されています。パチシランとブトリシランは、TTR遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)を選択的に分解し、TTR遺伝子の発現を抑制することで、変異型TTRの産生を阻害します。
心アミロイドーシスの場合、原因不明の心不全や心肥大、大動脈弁狭窄症の合併から疑われます。症状がなくても低電位など、何らかの心電図異常から診断につながることもあります。全身の多様な症状を合併することもあるため、心臓以外の症状にも注意が必要です。ATTRvアミロイドーシスは遺伝性疾患であるため、親族での発症がある場合は早期発見につながります。
いずれのタイプのアミロイドーシスも予防法は確立されていません。加齢によってなぜATTRwtアミロイドーシスを発症しやすくなるのかは不明であり、予防することは困難です。ATTRvアミロイドーシスは遺伝子異常が原因なので、兄弟・両親・親戚など家族歴が明確である場合、早期の治療介入により病気の進行抑制につながります。
解説: 川上 利香
吹田病院
循環器内科 科長
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