社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2022.12.07

減圧症

decompression sickness

解説:久保園 高明 (鹿児島病院 院長)

減圧症はこんな病気

減圧症は主にスキューバダイビング(空気を詰めたタンクを身につけて行なうダイビング)の際に、潜水終了直前、あるいは潜水終了後に発症する病気です。症状は関節痛筋肉痛めまい意識障害などさまざまです。潜水後に発症することが多いので、「潜水病」と呼ばれることがあります。

スキューバダイビングのタンクの中の空気は、約8割の窒素と約2割の酸素で構成されています。この空気を吸いながら水中に潜りますが、潜水中は周囲からの圧力で、普段地上にいるとき以上に身体の組織や血液・体液に窒素が溶解します。この状態の後に、急浮上して水中から地上に上がると周囲からの圧力が低下するため、組織や血液・体液に溶けこんでいた窒素が気化して気泡が発生し、この気泡が組織を圧迫したり、血液から酸素の供給を妨げたりして障害を起こします。

減圧症の症状

全身のさまざまな臓器内に発生した気泡によって、以下のような症状が現れます。

皮膚のチクチクしたかゆみや痛み、皮下に空気がたまる皮下気腫、ベンズと呼ばれる四肢の関節の痛み筋肉の痛み、息苦しさや胸の苦しさ、呼吸困難、頻脈、血圧低下、四肢の運動麻痺、知覚障害、尿閉(膀胱から尿を排出できなくなった状態)、めまい、聴力障害、吐き気、起立障害、意識障害など

上記の症状は下に進むほど重篤で、命の危険を伴うこともあります。レジャーダイバーの中でも40歳以上の人に、重症化して死亡するケースがみられます。

減圧症の検査・診断

減圧症を診断するための検査方法や診断基準は確立されておらず、潜水の状況(深度や時間)、症状、理学所見、既往歴などを含めて総合的に診断します。
減圧症を疑う状況と症状があって、超音波検査やCT検査などの画像診断で気泡が確認できれば、減圧症と診断できます。ただ、実際には気泡が見つからないことも多く、逆に画像診断で気泡があっても症状がないこともあります。

特に高齢者では潜水が直接の原因ではなく、整形外科的疾患による関節痛、心臓や肺の病気による胸部症状、脳血管障害による麻痺などの中枢神経症状が起こっている可能性もあります。これらの病気との鑑別をするために、血液検査、心電図、画像診断など一通りの検査を行なうことが必要です。

しかし、若くて元気なダイバーが潜水後に減圧症を疑う体調不良を訴えたときは、すぐに治療を開始することが大切です。

減圧症の治療法

潜水後の状態から減圧症が疑われる場合は、救急車を呼びます。車内でダイバーに高濃度の酸素を吸わせ、医療機関まで搬送します。
医療機関での治療の第一選択は「高気圧酸素療法」というもので、大気圧よりも高い気圧になった「高気圧酸素治療装置(チャンバー)」の中に患者さんを収容して高濃度の酸素を吸入させます。この治療法には、窒素の気泡を組織や血液・体液に再溶解させる作用、窒素を身体から排泄させる作用、血液の流れが悪いところに酸素を行きわたらせる作用があります。そのため、高気圧酸素療法は急性期の減圧症には有効な治療方法となります。
チャンバーには1人用のものと多人数用のものとがありますが、重症の減圧症の治療には多人数用のものを使って、医師も一緒にチャンバーの中に入ります。
チャンバーがない場合は、フェイスマスクを使って100%の酸素を吸入する治療法でも、ある程度は症状の改善が期待できます。

1人用のチャンバー

多人数用のチャンバー

多人数用のチャンバーの内部

減圧症は一刻も早く治療を開始する必要があり、そのためには早期に診断する必要があります。
スキューバダイビングの後にさまざまな体調不良(皮膚のかゆみや痛み、関節の痛み筋肉の痛み、息苦しさや胸の苦しさ、呼吸困難、頻脈、四肢の運動麻痺、知覚障害、めまい吐き気意識障害など)がある場合は減圧症を疑い、直ちに救命救急センターや専門医を受診する必要があります。そして診断が疑われた時点で治療を開始することが必要です。

減圧症の予防には、予防のための知識とそれを守ることがとても大切です。
例えば水中に深く潜らないこと(最近では水深6メートル以上で減圧症が起こるといわれています)や、長い時間潜らないことは大切ですが、最も大切なことは浮上速度を守ることです。
よくいわれるダイビングのルールでは、浮上時の速度として1分間に18メートルを超えないようにとされていますが、その目安として周囲にある自分が吐いた空気の泡の上昇速度を超えないように浮上する必要があります。

また、レジャーダイビングの終了時には水深5~6メートルで3~5分間とどまり、身体にたまっている窒素を排出してから浮上することも大切です。

減圧症を引き起こす二次的な要因として、疲労、脱水、激しい運動、寒さ、体調不良、月経、けが、ダイビング前後の飲酒、肥満などがあります。
また、ダイビングの後すぐに飛行機に乗ったり、登山をしたりすると減圧症になる危険性を高めてしまいます。

これらの予防の知識が不十分なまま、レジャーダイビングを体験して減圧症を発症したり水難事故に遭ったりするケースが多くみられています。旅行先などでのレジャーダイビングには十分な知識を身につけてから参加するようにしてください。

解説:久保園 高明

解説:久保園 高明
鹿児島病院
院長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE