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2022.07.20
狂犬病は、狂犬病ウイルスに感染した犬などの哺乳類にかまれたり、引っかかれたりしてウイルスが体内に侵入することで発症する感染症です。致死率はほぼ100%です。1956年以降、日本国内でヒトが感染して発症した例はありませんが、全世界ではアジア、南米、アフリカを中心に55,000人ほどが発症し、死亡しています。
狂犬病のない国は日本を含め世界中で10カ国程度しかないので、海外では感染に十分に注意する必要があります。犬以外にはキツネやアライグマなどからの感染もありますが、特に注意を要するのはコウモリです。南米ではコウモリからの集団発生例が報告されています。
感染した動物にかまれたり、引っかかれたりして体内に入った狂犬病ウイルスは、創部(かまれたり、引っかかれたりしたところ)からゆっくりと神経を通って中枢神経に侵入して発症します。感染から発症までの潜伏期は、1~3カ月程度のことが多いですが、長い場合は半年以上のこともあります。
発症当初は、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛といった風邪のような症状で、創部の痛みやしびれなどを伴うこともあります。
その後、興奮、不安状態、意識障害、錯乱・幻覚などの中枢神経症状が現れます。また、水を飲もうとしても水の刺激で喉が反射的にけいれんを起こして水が飲めなくなり、水を恐れるようになるため、狂犬病は「恐水病」と呼ばれることがあります。
さらにその数日後には、昏睡状態となって、不整脈、全身のけいれん、呼吸障害などが起こって死に至ります。
狂犬病が疑われる症状が現れたときに、唾液、脳脊髄液などからの蛍光抗体法(蛍光色素が付いた抗体を用いて抗原の所在を調べ、ウイルス感染の有無を確認する方法)によるウイルス抗原の検出や、PCR法(遺伝子の断片を増やして検出する方法)による遺伝子検出、血液中の抗体価の測定によって診断されます。
しかし日常臨床では、発症前に検査が行なわれることはほとんどなく、狂犬病と診断された時点で治療が困難と判断されることになります。
狂犬病ウイルスに感染している可能性のある動物にかまれたときは、直ちに以下の処置(曝露後予防処置・措置)を行ないます。
① せっけんと流水による創部の十分な洗浄
狂犬病ウイルスは体外では壊れやすいウイルスで、医療用の消毒液でなくても効果はあります。消毒液があれば、最後に消毒してください。ただし、粘膜から感染することがあるので、創部に口をつけて吸い出すようなことはしないでください。
② 狂犬病ワクチンの接種(曝露後免疫)
最も重要な処置です。狂犬病ウイルスは体内でゆっくり増殖するため、その間に身体の中に免疫(抗体)を作ることが目的です。あらかじめワクチンを接種(曝露前免疫)していた場合と、していなかった場合とでは、接種スケジュールが異なりますが、いずれにしろ十分な回数のワクチンを接種することが必要です。
③ 創部への抗狂犬病免疫グロブリンの局所投与
創部およびその周囲に、狂犬病ウイルスに対する抗体を直接注射します。
以上を行なえば、発症する確率はかなり低くなります。
狂犬病を発症してしまうと、医療先進国で集中治療を受けてもほぼ助かりません。長い歴史の中で、世界中で数人が後遺症を残して生存しているのみです。
早期の状態であっても、狂犬病を発症してしまうと予後不良です。
感染のリスクが生じた時点で、「医学解説」の治療法で紹介した曝露後予防処置を早急に受ける必要があります。
予防で最も大事なことは、海外では不用意に動物に近づかないことです。室内で飼っているペットも含めて、動物(哺乳類)は狂犬病に感染している可能性があります。狂犬病ウイルスは感染した動物の唾液の中に多く含まれるので、傷のある皮膚をなめられただけで、感染する可能性があります。海外では感染リスクのある動物に近づいたり、触れたりしないようにすることが大切です。
さらに、狂犬病の感染が多い地域に渡航するとき、仕事で動物に接触するとき、動物にかまれてもすぐには医療機関を受診できないときなどには、渡航前に狂犬病ワクチンを複数回接種(曝露前免疫)することをお勧めします。
渡航地域別の必要性については、厚生労働省検疫所のホームページなどを参照してください。
なお、かんだ犬がその後10日間健康であれば、かまれた人が狂犬病に感染する可能性はないといわれています。かんだ犬を特定できる場合は、10日間その犬の経過観察をすることをお勧めします。
解説:久保園 高明
鹿児島病院
院長
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