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2023.04.20
精索捻転症は、精巣(睾丸)と精巣に入る血管や神経の束「精索」がねじれてしまうことにより、精巣を包む袋である陰のう部から下腹部にかけての痛みと、陰のうの腫れが生じる病気です。約70%が思春期前の若者に発生し、新生児期にも発症のピークがあります。発生頻度としては精索の長い左側に多くみられます。
精索捻転症は時間の経過とともに精巣が萎縮して機能が失われる可能性もあるため、一刻も早い治療が必要となります。
精索は血管やリンパ管、神経のほか、精子の通り道である精管などが束になったものです。精索がねじれると精巣への血流が途絶えて、精巣が壊死してしまいます。
ねじれ方の違いによって「鞘膜外捻転(しょうまくがいねんてん)」と「鞘膜内捻転(しょうまくないねんてん)」の2種類あります。
鞘膜外捻転は精索を覆う鞘膜と陰のう壁との結びつきが弱いため、外から力がかかって精索の捻転が起こります。胎生期(妊娠中)に発症して精巣の消失を生じるのはこのタイプです。
鞘膜内捻転は鞘膜が釣鐘のようにすき間ができた状態で精索までを覆うため、その中にある精巣で捻転が起こりやすくなって発症します。幼児期以降に起こる捻転はほとんどが鞘膜内捻転です。
多くは陰のう部から下腹部にかけての激痛と陰のうの腫れで、夜間から朝方に急激に発症します。嘔吐を伴うこともあります。
触診では、片方の精巣が通常より高い位置にあり、横に移動しています。また、足の太ももの内側を触ると自然に精巣が上がる生理的な反射の消失がみられます。
画像診断では、超音波カラードップラー、ダイナミックMRI、陰のうシンチグラムによって精巣への血流を検査し、血流の低下あるいは途絶が確認できます。
陰のう部の疼痛がみられる病気には、精索捻転症、精巣付属小体(精巣垂、精巣上体垂)捻転症、急性精巣上体炎、急性精巣炎などがあり、これらを「急性陰のう症」と呼んでいます。
精索捻転症の診断では他の急性陰のう症との鑑別が必要ですが、鑑別に時間を要する場合(鑑別が困難な場合)は精巣の壊死に陥る可能性があるため、緊急手術を行なうことが勧められます。
精巣上体炎では発熱、血液検査で白血球の増加、CRP(C反応性タンパク=炎症や組織破壊が起こると血中に増加するタンパク質)値の上昇がみられますが、精索捻転症でも捻転が持続すると同様の状態がみられます。
まずは「用手的整復(ようしゅてきせいふく=手を使って正常な位置に戻す処置)」を試みます。
しかし、精索捻転症を発症してから精巣を救済できる確率(精巣救済率)は、6時間以内で90%、12時間以内で50%、24時間以内で10%、24時間を過ぎると0%と報告されており、6時間以内に行なわなければ精巣機能の完全回復が見込めないため、手術は躊躇(ちゅうちょ)すべきではありません。
手術は精索の捻転を解いて再捻転を生じないように精巣を陰のう内に固定します(精巣固定術)。また、もう一方の健常な精巣も将来的に精索捻転を生じる可能性があるため、精巣固定術を行なった方がよいといわれています。
捻転を解除しても血流が改善されなければ、精巣の壊死による生殖機能の低下を避けるために、精巣を摘出します。
夜間から早朝にかけて生じる左陰のう部の腫れ、時には嘔吐あるいは吐き気を伴う急激な疼痛があれば、まずは精索捻転症を疑い、泌尿器科専門医を受診しましょう。
残念ながら、精索捻転症を予防する方法は見つかっていません。「早期発見のポイント」で記したように、気になる症状があればすぐに専門医を受診してください。
また、疼痛がみられた後に精索の捻転が自然に解除され、痛みがなくなることもあります。しかし、後日再度捻転を引き起こす恐れがあるので、早めに専門医を受診をすることをお勧めします。
参考文献
吉田修,他:ベッドサイド泌尿器科学.南江堂,第4版:1015-1016,2013
Campbell-Walsh Urology.ELSEVIER.Tenth Edition:3587-3596,2012
解説:上領 頼啓
豊浦病院
特別顧問
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