社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2014.07.02

椎骨動脈解離

vertebral artery

解説:楠 勝介 (松山病院 脳神経外科主任部長)

椎骨動脈解離はこんな病気

動脈の壁は内側から内膜、中膜、外膜の三層構造をしています。このうち一番内側の内膜に傷がついて、そこから血管の壁の中に血液が入り込み、血管が裂けていく状態を動脈解離といいます。
首から脳に血液を送っている動脈は2対あります。それは首の前側にある頚動脈、首の骨の中にある椎骨動脈です。
動脈解離は全身の動脈に起こりますが、頭部では椎骨動脈の解離が最も多く、椎骨動脈が解離すると突然の激しい頭痛を起こします。このときに適切な治療を受け、血管の裂ける程度が軽症で頭痛の症状のみでとどまるならば、おおむね重大な問題は起こりません。しかし、血管の裂ける場所や程度によっては、裂けた血管が詰まって脳に血液を送れなくなったり、解離した場所から血栓と呼ばれる血の固まりが血管の中を移動して末梢血管を閉塞したりして、脳梗塞を起こします。その結果、運動麻痺や言語障害や嚥下障害などが出現します。また、血管の壁が外側まで裂けて、血管外に血液が漏れ出ると、くも膜下出血を起こし、激しい頭痛や意識障害が出現して致命傷になることもあります。脳梗塞やくも膜下出血を起こすと、状態によっては緊急に手術治療が必要になる場合があります。
従来は、脳卒中を起こして発見される椎骨動脈解離が多かったのですが、最近は精密な脳の検査を早期にすることが可能になり、軽症のうちに発見される患者さんが多くなっています。

椎骨動脈解離の種類

早期発見のポイント

椎骨動脈解離には特徴的な症状があります。それは、首の後ろや左右どちらか(あるいは両方)の後頭部に突然激しい頭痛が起こり、数日間続くということです。この症状は血管が裂けていくときの痛みであると考えられています。椎骨動脈解離によって脳梗塞くも膜下出血を起こす前に頭痛を自覚される患者さんも多いです。このような症状があり、椎骨動脈解離が疑われる場合は、早めに脳の専門病院を受診し、脳血管を写す検査をして確定診断をしないといけません。専門病院では頭部CT、頭部MRI、MRA(MRIで脳血管を写す撮り方)や脳血管撮影(カテーテル検査)をして、血管の壁が裂けている場所や程度を確定し、早急な治療を開始する必要があります。
椎骨動脈解離を起こしてすぐに病院を受診することができ、血管の裂けている程度が軽度であれば、薬を使った治療で経過をみますが、場合によっては薬の治療に加えて、手術が必要になることがあります。

予防の基礎知識

椎骨動脈解離はすべての年代で起こりますが、若年者や働き盛りの男性に多いといわれています。はっきりした原因が分からない場合もありますが、カイロプラクティック(手を使って背骨や骨盤のゆがみを矯正したり、マッサージを行なうもの)やスポーツ、日常動作などで首を急に曲げたり、外傷や交通事故で頭部をぶつけたり、首をひねったりして椎骨動脈解離を起こすことがあるともいわれています。そのため首を急に動かす動作は控えることが大事です。
また、タバコは脳を含めた全身の血管に最も悪影響を及ぼすので、禁煙を心がけることが必要でしょう。

楠 勝介

解説:楠 勝介
松山病院
脳神経外科主任部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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