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2017.08.02
歯がしみるなどの症状が起きる歯髄炎を放置すると、歯髄が死んで(失活して)「歯髄壊死」の状態になります。さらに放置を続けると、歯の内部(髄腔と呼ばれる、歯髄が入っている部分)に停滞する多数の細菌によって、壊死した歯髄が腐敗してしまい、「歯髄壊疽(えそ)」の状態になります。
根尖性歯周炎の仕組み
歯の内部には多数の細菌が生息しているため、やがて歯根の尖端にある血管などが入ってくる孔(根尖孔)から、歯根の周囲の組織(根尖歯周組織)に細菌の感染が広がり、病巣が拡大していきます。その結果、歯根の尖端に炎症が起きて膿がたまった状態「根尖性歯周炎」が起きます。
歯根から広がった炎症によって歯槽骨の内部に膿がたまり、歯を支える顎の骨(歯槽骨)が溶けて破壊されるため、激しい痛みが生じて歯肉や顎が腫れることもあります。さらに進行すると、歯根の先端にたまった膿が歯肉にできた穴から口の中に出てきたり、皮膚に穴ができて膿が外へ出てくることがあります。
原因となっている歯の内部で感染した歯髄や腐敗物、細菌を取り除く「感染根管治療」を行ないます。しかし、歯の根の内部の空洞(根管)は、細くて複雑に入り組んだ構造をしており、歯の種類によっては治療が非常に困難です。治療回数は症例によっても異なりますが、根管の形が複雑な場合、1カ月以上かかってしまうこともあります。
感染根管治療は非常に難しい治療で、成功率は60~80%程度と言われています。※この成功率を上げるには、細菌が含まれる唾液が治療中に根管の中に侵入しないように防ぐことが大切です。治療経過が不良の場合には、感染源となっている歯の周囲に悪影響が及ぶため、抜歯が必要になることもあります。
感染物質が取り除かれた歯の内部の空洞には、再び細菌などが侵入しないように、生体に無害なゴム状の物質で根管を隙間なく緊密にふさぐ必要があります(根管充填)。これらの治療の他にも、歯を保存するため、病気の根を外科的に処置する「外科的歯内療法」もあります。
感染根管治療を行なった多くの歯は、歯根の周囲の病状も回復に向かいます。しかし、このような治療を行なった歯は、歯髄が正常な歯(生活歯)のように歯質の再生や強化といった作用が行なわれなくなるため、適度な弾性と安定した強度が保たれなくなって構造的にも脆くなり、歯や歯の根が割れる(破折)こともあります。そのため、早い段階で歯髄の健康維持を図る治療を受ける必要があります。
根尖性歯周炎で抜歯が必要になる症例
・歯が縦や歯肉の中で割れている場合(感染根管治療をしても治らないため、残念ながら抜歯せざるをえないケースがほとんどです)
・歯根が溶けて吸収されている場合
・重度の歯周病で歯を支える骨がない場合
・感染根管治療で根尖性歯周炎が治らない場合(外科的に歯肉を切って直接根管治療を行なう外科的歯内療法もありますが、この外科的な方法を行なっても治らない場合は、やはり抜歯となります)
下記のような症状がある場合は速やかに歯科を受診しましょう。
1 歯が浮いたような感じがする
根尖性歯周炎になると、歯が浮いたような感じがします。これは歯の歯周組織に炎症が起きていることを示しています。 食べ物を噛んだ時や歯を叩いた時には、歯周組織に響いて痛みを感じることがあります。歯科受診の際に歯を叩いて、この歯周組織で生じる痛みを確認しています。 症状が強く出ている急性根尖性歯周炎の時は、叩かれると強い痛みを感じます。
2 痛みが強くなってくる
初期に少し鈍い痛みを認めることもありますが、基本的にはあまり痛みは感じません。しかし、進行していくにつれて、ドクドクと血管の脈拍に合わせるかのような痛み(拍動痛)が出てきます。特に、体温が高くなると痛みが増すことがあります。
3 歯肉が腫れる
歯根の歯肉が赤く腫れます。膿がたまると歯肉が膨らんだり、押すと痛みを感じることもあります。重症化すると、広い範囲で顔が腫れることもあります。
4 熱が出る
根尖性歯周炎は細菌感染なので、重症になると顎の下にあるリンパ節が腫れ、体調が悪いと発熱することがあります。
5 歯肉に瘻孔(ろうこう)ができる
根尖性歯周炎でできた膿は、歯肉を破って外に出てきます。この時歯肉にできる穴を瘻孔(ろうこう)といいます。膿が瘻孔から歯肉の外へ排出されると痛みが軽減して、全身症状も軽くなりますが、治ったわけではありません。また、瘻孔は顔の皮膚にできることもあり、この場合は外歯瘻(がいしろう)と呼ばれます。
発症原因は、多くの場合がう蝕(むし歯)の進行によるものですが、転んで歯を打つことで歯に亀裂が入り、神経を死なせてしまったなど、外部から強い刺激が加わることによって生じることもあります。
既に症状が現れてしまっている方はすぐに歯科受診を行ない、適切な治療を受ける必要があります。
抜歯を避けるためには歯磨きや、マウスピースを使用することで外傷、外的な影響を可能な限り防ぐなど、日々の予防も重要ですが、定期的に歯科を受診することで、治療すべき歯を早期に発見することが大切です。セルフケアと専門家によるケアにより、重症化を防ぎましょう。
解説:竹縄 隆徳
山口県済生会下関総合病院
歯科口腔外科医長
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