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2023.02.08
水疱性類天疱瘡は、かゆみの強い赤い斑点(紅斑)、水ぶくれ(水疱)が全身にできる皮膚の自己免疫性疾患です。高齢者に多くみられ、ごくまれに若い人や小児にも発症することがあります。
日本では1万5000~2万人ほどの患者さんがいると推定されていますが、軽症を含めると実際はそれ以上の患者数になると見込まれます。高齢人口の増加により、今後さらに増加すると考えられています。
自己免疫性疾患なので、うつる病気ではなく、現在分かっている範囲では遺伝による発症もありません。
原因は不明ですが、何らかのきっかけで、皮膚の「表皮」と「真皮(しんぴ)」の間にある基底膜のタンパク質を異物として攻撃する自己抗体「IgG抗表皮基底膜部抗体(抗BP180抗体)」が作られ、タンパク質を壊してしまいます。これにより表皮と真皮が離れてしまい、皮膚に水疱やびらん(皮膚や粘膜の表面が欠損した状態)ができたり、紅斑ができたりします。
糖尿病治療薬の「DPP-4阻害薬」により誘発されることも知られています。
水疱性類天疱瘡とは別に、基底膜を構成する「BP180C」や「ラミニン332」といったタンパク質を攻撃する自己抗体を作り、皮膚の粘膜部分に水疱・びらんを生じる「粘膜類天疱瘡」という病気もあります。
全身に、強いかゆみを伴う紅斑や水疱、水疱が破れた後のびらん、びらんが治った後の色素沈着、瘢痕(はんこん=傷などが治った後に残るあと)が多発し、これらの症状が入り混じった状態がみられます。
全身にびらんが多発するため、症状が重いと、体液や血液が体外に出ていって低栄養や貧血を起こします。それが改善されず徐々に状態が悪化すると、びらんからの細菌感染症による敗血症を起こし、命にかかわることがあります。
また、内臓悪性腫瘍を合併することがあります。
なお、粘膜類天疱瘡では主に眼粘膜や口腔粘膜に水疱やびらんが生じますが、まれに喉や鼻、陰部、肛囲の粘膜などにも生じて瘢痕を残すことがあります。
血液検査では、血中の好酸球(白血球の一種)やIgE(免疫グロブリンの一種)が増え、抗BP180抗体がみられます。
皮膚の一部を採取する皮膚生検による病理組織検査では、表皮の下に水疱があり、水疱内と真皮に好酸球がみられます。また、表皮と基底膜の境目あたりにIgG(免疫グロブリンの一種)や補体(身体の免疫機能を補助するタンパク質)の線状沈着もみられます。
ステロイド薬を内服します。その日に新しくできた水疱の数や、皮膚症状の面積などで、軽症・中等症・重症などを診断して、薬の量が決まります。
軽症であれば、抗菌薬のテトラサイクリンとビタミンB群の一種であるニコチン酸アミドを併用して内服するだけで治ることがあります。
中等症から重症であれば、テトラサイクリン、ニコチン酸アミドを併用しながら、ステロイド薬を内服(プレドニゾロン20~30mg/日)します。
非常に重症の場合は、ステロイド薬を大量に点滴するパルス療法、ステロイド薬以外の免疫抑制剤の投与、血液中の血漿だけを交換する血漿交換療法、免疫グロブリン製剤の注射などを行なうことがあります。
ステロイド薬の内服でほとんどの人は治りますが、水疱性類天疱瘡の患者さんは高齢者が多いため、長期の内服に伴う合併症によって命にかかわることがあります。
高齢で、特に原因がなく、手足などに比較的左右対称に強いかゆみを伴う水疱が多発して、新しく何個も出てくる場合、水疱性類天疱瘡の可能性があります。
皮膚科ではよく知られている病気です。まず、皮膚科を受診することをお勧めします。
水疱性類天疱瘡は発症の原因が分かっておらず、残念ながら現時点では予防法はありません。
解説: 鉾石(ほこいし) 真理子
今治病院
皮膚科部長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。