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2023.03.29
関節の老化によって痛みなどの症状を起こすことを「関節症」と呼びますが、7つの骨から成る頸椎(首の骨)はそれぞれ関節(椎間関節)でつながっており、頸椎で生じる関節症を頸椎症といいます。頸椎症は原則として、がん・けがなどによるものや先天的なものではなく、老化による椎間関節の傷みなどで症状が現れる状態のことです。神経が圧迫される部位や状態によって「頸椎症性脊髄症」と「頸椎症性神経根症」に大別されます。
頸椎の中には大きく分けて2種類の神経が通っています。
一つは頸椎の中央を貫通する脊柱管(せきちゅうかん)というスペースを通る「脊髄(せきずい)」で、これは中枢神経という脳の仲間に分類されます。
もう一つは、脊髄から左右に枝分かれする細い神経で、「神経根(しんけいこん)」と呼びます。頸椎の神経根は左右1対ずつ合計16本あります。こちらは末梢神経に分類されます。
頸椎が老化すると、椎間関節が不安定になったり、椎間板(骨と骨との間のクッション)が潰れたり、骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨の出っ張りができたりします。そうすると、椎間関節を連結する線維である靭帯が厚くなるほか、椎間板や骨棘が神経の通り道の方向に飛び出してしまい、脊髄や神経根を圧迫します。
脊髄が圧迫されて症状が現れると頸椎症性脊髄症、神経根が圧迫や刺激されて症状が現れると頸椎症性神経根症となります。
◇頸椎症性脊髄症
脊髄は手足(四肢)や胴体(体幹)も支配する神経のため、首から下全体に症状が現れる可能性があります。具体的には手のしびれや使いにくさ、歩行時のふらつき、歩きにくさなどの症状が出現します。進行すると下肢や体幹のしびれ、知覚障害、排尿排便の障害も現れます。さらに進行すると歩行ができなくなります。
◇頸椎症性神経根症
脊髄から分岐した神経の枝が圧迫されることで症状を起こします。具体的には、肩甲部(首筋から肩甲骨までの部位)から腕や手にかけてのしびれ・痛みが多く、手に力が入りにくくなることもあります。
最も簡便で手軽にできる検査は単純X線撮影です。方向を変えたり、頸椎を前後屈して撮影したりすることで、頸椎の全体的な形、変性の程度や関節が不安定になっているかなどが分かります。
しかし、どの部位にどの程度の神経の圧迫が生じているかを正確に把握するにはX線だけでは難しく、診断を確定するためにはMRIの撮影が必要です。MRIは強い磁石と電波を使って身体の断面図を撮影するため、体内に特定の金属やペースメーカーなどの医療機器が入っていると撮影できないことがあります。
◇頸椎症性脊髄症
脊髄はデリケートな神経で末梢神経よりも損傷しやすく、元に戻りにくい性質があるため、軽症のうちに早期に治療を開始した方が望ましいです。
狭くなった脊柱管は薬やリハビリで広がることは通常なく、有効性のある治療法は手術で脊柱管を広げるしかありません。
手術は、首の前方や横から椎間板や骨棘などを削って神経の圧迫を取り除く「前方固定術」や、首の後方の「椎弓(ついきゅう)」と呼ばれる場所に切り込みを入れ、人工骨やプレートを使って脊柱管を広げる「椎弓形成術」などが一般的です。前者は前方から神経の圧迫が強い場合、後者は狭くなった関節が多い場合に行なうことが多いです。
◇頸椎症性神経根症
頸椎症性脊髄症と同様に時間とともに元の状態に戻るわけではありませんが、「頸椎症性脊髄症」と異なり症状そのものは時間とともに軽減することがしばしばみられます。そのため、初診でいきなり手術となることは少なく、鎮痛剤などでしばらく経過を観察することが多いです。
痛みが強くて日常生活が困難な場合や、ある程度時間が経過しても改善がみられない場合、麻痺が強い場合は、「前方固定術」や「椎弓形成術」などの手術療法を行ないます。
頸椎を手術するというと恐ろしい感じがするかもしれませんが、現在は手術の低侵襲化(患者さんへの身体への負担が減ること)が進んで安全性も進歩しており、通常は手術後に麻痺になって歩けなくなったり寝たきりになったりするケースはみられません。
医学解説の「頸椎症の症状」の項で記した症状を自覚した場合、「年のせいだから仕方ない」などと決めつけず、医療機関を受診し、適切な検査を受けましょう。特にMRIを撮影することが重要です。
痛みやしびれを引き起こす病気は多いため、しっかりと鑑別するために整形外科か脳神経外科の専門医を受診することをお勧めします。
頸椎症は年齢的な変化が主体ですので、残念ながらエビデンス(数字に裏打ちされた正確な根拠)のある有効な予防法はありません。
頸椎症性脊髄症では、頸椎に衝撃が加わると麻痺が重症化するリスクがあります。診断された場合は、頸椎に外から力が加わるリスクがあるスポーツや活動は控えた方がよいでしょう。
解説:石井 圭史
湘南平塚病院
院長補佐 脊椎外科部長 整形外科部長
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