社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2018.12.19

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)

Chronic Inflammatory Demyelinating Polyradiculoneuropathy:CIDP

解説:村上 善勇 (埼玉県済生会栗橋病院 神経内科副担当部長)

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーはこんな病気

何らかの免疫の異常により、慢性的に末梢神経(脳や脊髄など中枢神経から枝分かれして身体の各筋肉につながっている神経)が障害を受ける病気です。日本での有病率は人口10万人あたり0.81~2.24人と言われています。難病に指定されていて、難病医療費支援制度の基準を満たせば医療助成を受けることができます。英語表記の略語としてCIDPと呼ばれることが多いです。

慢性の病気で経済的・精神的負担が大きいため、継続的に医療を受けられるように難病医療費支援制度を利用したり、症状の重症度に合わせ身体障害者手帳の交付を受けたり、全国CIDPサポートグループというCIDPの患者会を利用したりするのも一つの手段です。どのように社会的支援を受けたらよいか分からない場合は、受診の際に医療ソーシャルワーカーに相談するのもよいでしょう。

中枢神経と末梢神経の障害
中枢神経と末梢神経の障害

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーの症状

2カ月以上かけてゆっくりと進行する四肢筋力低下と感覚障害があります。四肢の近位筋(体幹から近い筋肉)と遠位筋(体幹から遠い筋肉)が左右対称に同程度に弱くなるのが典型的なCIDPですが、遠位筋がより弱くなるものや左右非対称で症状が現れるものなどもあります。また、進行形式も場合によって異なり、寛解再燃(よくなったり悪くなったりする)しながら進行するものや、徐々に悪くなるものがあります。
似たような症状が現れる病気に「ギランバレー症候群」があります。CIDPと同様に、免疫の異常により末梢神経が障害される病気ですが、ギランバレー症候群はおおむね4週間で症状がピークに達し、そこから進行しないという点でCIDPと大きく異なります。

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーの治療法

免疫の異常が原因なので、免疫に作用する治療が行なわれます。部位や左右対称性、進行形式などによって治療に対する反応は異なりますが、ステロイドや免疫抑制剤などの薬物療法のほかに、血漿交換療法や免疫吸着療法など大型の機器を使った治療が行なわれます。症状のパターンによっては、高い治療効果が見込める場合もあります。

早期発見のポイント

筋力低下、感覚障害のパターンや進行形式が多様であること、また末梢神経が障害される病気はほかにもたくさんあり、鑑別すべき病気も多いため、診断は容易ではありません。そのため、末梢神経障害に詳しい神経内科医を受診し、CIDPと診断されたら治療方針を決定してもらうのが望ましいです。診断には詳細な病歴聴取と診察が必須で、神経伝導検査(神経に電流を流してその速度を確認する検査)のほかに血液検査、髄液検査、画像検査を行ない、場合によっては神経を一部体内から取り出して顕微鏡で詳細に調べます。また、しばらく症状の経過を見て判断したり、治療してその反応を参考にしたりすることもあります。

手根管症候群、尺骨管症候群、頸椎症糖尿病性末梢神経障害など末梢神経にかかわる他の病気だと診断され、長年経過観察されているCIDPの患者さんがよく見られます。症状が進行し複数の手足に症状が現れる場合は、あらためて神経内科を受診するとよいでしょう。

長期にわたって末梢神経障害が続き著しく筋肉が痩せてしまった場合、回復が難しいことが多くなります。一方で、治療せず何年も経過観察された患者さんが回復することもあります。CIDPであれば、決して緊急性の高い病気ではないので焦る必要はありませんが、何カ月も放置せずなるべく早めに診察や治療を受けることを勧めます。

予防の基礎知識

病気の原因がはっきりしないので予防法はありません。しかし、CIDPと診断された場合、病状の悪化を防いだり再発を予防したりすることが重要です。

過度のアルコール摂取は末梢神経に悪影響があるので避けましょう。また、糖尿病を合併するCIDPの患者さんがたびたび見られます。糖尿病とCIDPの関連はまだはっきりと分かっていませんが、糖尿病そのものが末梢神経障害を引き起こすので、末梢神経障害の合併を防ぐためにも糖尿病の治療は大事なポイントになります。

予防維持治療でステロイドや免疫抑制剤を長期に内服する場合は、その副作用予防も同時に行なうことが重要です。CIDPがよくなっても薬の副作用で他の病気や障害が出てかえって具合が悪くならないように、定期的に診察や検査を受けましょう。

運動機能を維持するために、日頃の運動療法も取り入れましょう。すでに運動機能が落ちてしまった場合、リハビリテーション専門スタッフのもとでリハビリに取り組む、もしくは日頃の運動のアドバイスを受けるとよいでしょう。

村上 善勇

解説:村上 善勇
埼玉県済生会栗橋病院
神経内科副担当部長

 


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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