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2024.10.16
心理学では、ストレスなどの影響が引き起こす「つらさ」や「苦しさ」などの心の痛みから自分を守るために、衝動や葛藤を抑え、別の症状が出現することを「転換」といいます。
それらの症状を出すことで、ストレスから自分の心を守る(防衛する)ためと考えられますが、広い意味では結果的に生活上の不利益につながることが多く、健全な守りではなく(病的防衛機制)、治療の対象となります。原因となる心の背景が見えない場合もあり、精神分析という心理状態を探る方法で、明らかにすることもあります。
転換によって出現する症状はいろいろで、人格、意識、記憶、行動、身体機能の変化など、さまざまな形をとります。心の一部を自身から切り離すこと(解離)で自分を守る病態を「解離性障害」、体の動きや感じ方などの身体機能を変えること(転換)で自分を守る病態を「転換性障害」といいます。自分を守ろうとする心理的背景は明確でないこともありますが、体の症状として「表現」され、痛みやしびれ、吐き気などとして出現する症状は「身体表現性障害、身体化障害」といわれてきました。
いずれも、ストレスなどの心理的な背景を心身の症状に「転換」している自覚は、患者さんには無いことが多いです。患者さんがわざとそのように振る舞い、嘘をついているのではありません。どうしてそのような症状になるのかは、患者さん本人には不明な状態で症状が出現します。患者さんの自覚がない状態での治療は、簡単ではないことが多いです。
これまでは、「転換性障害」「解離性障害」「身体表現性障害」と別々に診断されてきましたが、WHOの国際疾病分類第11版(ICD-11)では、前2者をまとめて「解離性障害」として扱うようになりました。また、身体表現性障害は「身体的苦痛症」と病名が変更になりました。「転換」「身体表現」という心理学的なプロセスが、必ずしも客観的に評価できない場合もあり、「解離」や「苦痛」という症状レベルの評価に基づいた診断になります。
これらの病態は、いずれもストレスなどの心理的な背景が原因となって出現する心身の症状であり、治療では背景の心理状態の改善を目指すという共通点があります。ストレスが多い現代社会において頻度の高い疾患です。
身体機能の変化はさまざまで、手足の動きや感覚、視力、聴力、味覚、発語など多くの機能の変化が認められます。その症状により心因性運動障害(麻痺)、心因性疼痛、咽喉頭異常感症(ヒステリー球)、失声症、心因性視力障害、心因性非てんかん性発作などの診断名で呼ばれます。
身体症状に関して、身体的な疾患を除外することが必要です。上記の症状の記載のように、脳神経内科、耳鼻科、眼科、消化器内科、循環器内科など様々な科において身体的な機能は保たれていることを確認した後に、心理的な背景を分析します。
心理的な背景の分析は、患者さんとの面談の中で、存在するストレスと身体症状との関連について、ともに考えます。身体症状の出現の時期、出現のしかた、その時の心理状態など、いろいろな面から分析をします。ご家族や、周囲の関係者からのお話も聞き、心理的な背景を考えます。断定することは困難な場合がありますが、ストレスの影響を「転換」する病態として、診断につなげます。
主として、精神療法により症状の背景にあるストレスの解決を目指します。患者さんが背景にあるストレスと身体症状の関連性の自覚が得られるように面談を進めます。患者さんがストレスを解決することの必要性に気づき、解決に向けて行動できるようにサポートします。自覚が得られない場合でも、想定される環境の調整を患者さんと話し合いながら進め、支持的な治療関係を継続します。
出現している症状が、身体的な原因に基づくのかどうかの判断を適切に行うことが大事です。その上で、心理的な「転換」というプロセスの症状である可能性を、患者さんとともに考え、治療に結び付けていきます。
人はストレスから自分を守るべく、様々な心のプロセスを用います(防衛機制)。「転換」というプロセスは健全なものではなく、治療を必要とする結果につながります。ストレスを自分の心身の症状に「転換」するという自己の内側の解決ではなく、周囲の人との関係性や社会的な活動などにおいて解決するような外向きの考え方を日ごろから持つことが転換性障害の予防につながると思います。
解説:榛葉 俊一
静岡済生会総合病院
精神科
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